光と色の話 第二部
第2回 光学フィルタ
光を扱う装置等では、光学フィルタがよく使用されます。光学フィルタは、対象とする光を入射させ、目的に合った分光特性や偏光特性を持った光を透過光として取り出す光学部品です。一口に光学フィルタと言ってもその光学的特性(分光透過率特性等)はもちろん、それを実現するための原理、素材や形状等も含めて様々な種類があり、目的・用途に応じて使い分けられています。ここでは主としてその分光特性について触れてみたいと思います。
ロングパス、ショートパス、バンドパスフィルタ
先ず、対象光の或る波長域の成分を透過抽出してそれ以外の波長域の成分はカットしたいという場合に、波長選択域を概念的に示すものとして使われる次の3種の分類表現が挙げられます。
- ロングパス(短波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも長い波長域(λ0<λ)を透過し、短い波長域(λ<λ0)をカットするフィルタ
- ショートパス(長波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも短い波長域(λ<λ0)を透過し、長い波長域(λ0<λ)をカットするフィルタ
- バンドパスフィルタ
- 特定の波長範囲(λ1~λ2)のみを透過し、その両側の波長域(λ<λ1、λ2<λ)をカットするフィルタ
防熱のために赤外線をカットする熱線吸収フィルタと呼ばれるフィルタはショートパスフィルタの一種ですし、また有害紫外線をカットするフィルタはロングパスフィルタの一種と言えます。
なお、ショートパス、ロングパス、バンドパスという分類表現は、暗黙のうちに可視域において、とか、近赤外域において、というように大雑把な対象波長域が念頭に有って使われているものです。紫外から赤外に亘る広い波長範囲全般を対象に考えると、必ずしもショートパスとかロングパスとかいう特性にはなっていない場合が多いので注意が必要です。例えば可視域でショートパス(長波長カット)と称するものであっても赤外域もカットされているとは限らず、スカスカに透過していたり、紫外域では透過せずにカットされていることが多いのが実際です。同様に可視域でバンドパスと称していても、バンドパス波長帯より遠く離れた波長域(例えば赤外域等)でも再び分光透過率が上昇していることが多いものです。従って、目的とする対象波長域以外の透過成分をカットするためのフィルタを組み合わせて使うことが多いのが現実です。
シャープカットフィルタ
このような波長域選択の機能・性能として、所定の波長帯域内では対象光の分光特性を変化させずに高い透過率でそのまま素通しして、それ以外の波長域を完全にカットしたいという厳しい要求の場合もあれば、そこまでは拘らず透過光の分光特性が多少変化を受けてもそれほど大きな問題にはならないという場合まで、色々な場合があります。
波長域選択特性が厳しい場合は、分光透過率特性が特定の波長を境にして極めて急峻に変化(上の概念図のように、例えば分光透過率がλ0=500nmの前後数nmの範囲で透過率がほぼ0%から90数%に急激に変化)する必要があり、シャープカットフィルタ と称されるフィルタが用いられます。シャープカット特性を持つフィルタの代表的なものは干渉フィルタと呼ばれるもので、透明のガラス基板の表面に誘電体光学薄膜を多層に重ねた構造のものが一般的です。これは、入射光が多層膜を通過する過程での膜内多重反射による干渉現象により、極めて急峻な分光透過率変化を達成したものです。多層膜を構成する誘電体の材質(屈折率)、膜厚、膜の層数等の組み合わせによって、ロングパス、ショートパス、バンドパスいずれにおいても、様々なシャープカット波長(λ0 ,λ1 ,λ2)のものが設計・製作されています。
バンドパスフィルタは、特定の波長範囲のみを“くり抜く”ために用いられますが、非常に狭いバンド幅の場合には殆どの場合、干渉フィルタが使われます。≪※1≫
干渉フィルタを使用する場合に特に注意しなければならないのは、フィルタへの入射角です。干渉という原理によっているために、入射角に依存して光学薄膜内での光路長が変化して干渉条件が変わってしまい、その結果入射角毎に分光透過率特性が異なってしまうということが起こってしまいます。(カタログ等に記載された分光透過率特性は通常垂直入射の場合の特性です。)従って、垂直入射ではない場合には、その入射角での分光透過率特性を予め確認しておくことが必要です。また、入射角が一定しないような場合には、分光透過率特性の変動幅が許容できるかどうか判断して使う必要があります。
透過光の分光特性変化にはあまり拘らないで、主目的の波長域の成分が概ね主成分として透過すれば良いという程度であれば後述の色フィルタが使われることも多い様です。
色フィルタ
可視域において、主に色彩を調整したり変換したりする目的で用いられるのは、一般に色フィルタと呼ばれています。これは、フィルタ内部に様々な種類の色素を含有させて、その分光吸収特性によってフィルタとしての分光透過率特性を作り出しているものが殆どです。
フィルタの素材としてはガラス製(色ガラスフィルタ)やアクリル樹脂パネル製(アクリルフィルタ)、更に樹脂フィルムシートのフィルタ(アセテートフィルタやゼラチンフィルタ等)があります。各種の色および濃度のものがあり、多くは比較的なだらかな分光透過率曲線でそれを実現しているもので、それに加えて、シャープカットのロングパスフィルタもあります。
色ガラスフィルタは、温湿度等の環境耐久性に優れているという長所がある一方、(面積の大きい場合には)ショックで割れやすい等の短所もあります。≪※2≫
これに対して、色フィルムシートフィルタは、色ガラスフィルタに比べて環境耐久性は一歩譲りますが、鋏やカッターで容易に切断でき、非常に薄くて実装スペースも少なく、また湾曲させて使うことも可能等、加工・実装上のメリットもあり、比較的安価で使いやすいという長所があります。
色フィルタの場合、フィルタ内に含有させて分光透過率特性を作り出している色素の吸収特性のために、通常、シャープカット特性が得られるのはロングパスフィルタだけで、ショートパスフィルタやバンドパスフィルタではシャープな特性変化が出ず、ダラダラっとした特性になっています。また、含有色素の特性から、多くの色フィルタでは、近赤外域で透過率が高くなっているものが多いので、赤外成分の存在が問題になる場合は赤外カットフィルタと重ねて使用することが必要になります。
色温度変換フィルタ
色フィルタの内で、白色光源の色味・・・・・・(相関)色温度・・・・・・を調整するために用いられるのが色温度変換フィルタで、写真撮影等でよく使われます。≪※3≫
概ねなだらかな分光透過率変化を持つフィルタで、相関色温度を下げる(赤味を強める)為には分光透過率特性が右肩上がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が上昇)、相関色温度を上げる(青味を強める)為には分光透過率特性が右肩下がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が下降)するように作られています。
NDフィルタ
用途によっては、対象の光の分光特性を変えずに強さだけを弱めたい(減光したい)という場合もあります。このような要求に対して、分光透過率が概ね一定(フラット)に作られたNDフィルタ(Neutral Density Filter)があり、どの程度減光したいかによって、様々な濃度(透過率)のものが用意されています。
NDフィルタは全波長に亘って透過率が一定(フラット)であるのが理想なのですが、NDフィルタの種類によってフラットとされる波長範囲も限られており、その範囲は様々で、また“フラットさ”の程度も色々ですので、(紫外、可視、赤外にかかわらず)使用目的とする波長範囲において特性の“フラットさ”がどの程度になっているかを確認して使用することが必要です。一般的には、色素含有型のNDフィルタ(色フィルタの一種)よりも金属薄膜を使用したNDフィルタの方が、ND特性が良好なものが多い様です。
色フィルタの応用例
例えば、照度や輝度を測定する場合、測定器のセンサーは、人間の眼の明るさに対する感度特性である標準分光視感効率V (λ) に合った分光応答度特性を持たせてやる必要があります。これを実現する方法としては、大きく分けて次の2通りのやり方があります。
- ①フィルタ方式
- センサー(シリコン受光素子等)に光学フィルタをかけてセンサーユニットとしてV (λ) 特性を実現する方法
- ②分光方式
- 分光センサーの感度特性と標準分光視感効率V (λ) との関係から、予め波長毎に補正係数を求めておき、測定対象光を測定した分光センサー出力にその補正係数を乗じて全波長域で合算(数値積分)する方法
フィルタ方式において、センサー単体の分光応答度をS0 (λ)、光学フィルタの分光透過率を
F (λ)とすると、センサーユニット全体としての分光応答度S (λ)は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)
と書くことができます。従って、このS (λ)を可能な限り、標準分光視感効率V (λ) に一致させてやることが必要になります。しかし現実には可視域全体に亘って厳密に S (λ)≡V (λ) を達成することは極めて困難で、現実には概ね S (λ)≒V (λ) ということで妥協する形で実用化されています。
この光学フィルタの分光透過率特性 F (λ) を標準分光視感効率V (λ) に精度よく近似させるのはなかなか大変なところがあり、1枚のフィルタだけで実現するのはまず無理で、2枚以上のフィルタを重ね合わせることが必要になります。具体的には、センサー単体の分光応答度S0 (λ)を測定した上で、これに対して目的関数V (λ) のピーク(555 nm)より短波長側の傾斜特性を達成するようなアンバー色系統の色フィルタ(分光透過率F1(λ) )を、また、長波長側の傾斜特性を達成するようなシアン色系統の色フィルタ(分光透過率F2(λ) )をかけるようにします。2種のフィルタを重ねた合成フィルタの分光透過率は F (λ)=F1(λ)・F2(λ) となり、センサーユニットの合成分光応答度は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)=S0 (λ)・F1(λ)・F2(λ)
となります。色フィルタには様々な濃度・特性のものがありますのでそれらの内からS (λ) を目的関数のV (λ) に極力近似させるようにフィルタF1(λ)、F2(λ) を選択する訳です。以上の説明はアンバー色フィルタとシアン色フィルタの2種で説明しましたが、近似精度を上げるためには、実際には更に微調整用のフィルタを追加してやる必要も出てきます≪※4≫。ただ、フィルタの枚数が増えるほど透過光束は低下して、測定器としての感度不足(ダイナミックレンジ下限の上昇)になってしまいますので、悩ましいところではあります。
注釈
≪※1≫ 狭帯域バンドパスフィルタ
狭帯域のバンドパスフィルタの場合は、シャープカットと言えども、完全な矩形波状の分光透過率特性にするのは困難なため、透過光の分光透過率特性の保存はかなり難しく、多くの場合は対象狭帯域のエネルギー成分を極力多く抽出するという目的で使用されます。
≪※2≫ 色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率
色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率 通常、色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等は特定の厚みのもの(例えば厚さ2.5 mm)が標準品として販売されています。これらのフィルタは素材の厚みに応じて含有色素量も変わるため分光透過率特性は厚みに依存して変化します。標準品では所望の分光透過率特性が十分達成しきれない場合もありますので、このような場合にはフィルタを薄く研磨したり、複数枚のフィルタを重ねて併用することが必要になる場合もあります。
≪※3≫ 写真用色温度変換フィルタ
近年、写真撮影は殆どデジタルカメラになってきましたので、写真撮影時の色温度調整はホワイトバランス機能をうまく使って色温度変換フィルタを使わずに撮影するということが多くなっています。
≪※4≫ 紫外、赤外域の完全カット
実際には、可視域の分光応答度特性の作り込みに加えて、紫外、赤外域を完全にカットすることが必要です。アンバー色系統、シアン色系統の色フィルタは赤外域で透過率が上昇しているものが多いため、その波長帯にセンサー単体の分光応答度S0 (λ) に感度がある場合には、それをカットするフィルタを更に組み合わせる必要があります。
光と色の話 第二部
第2回 光学フィルタ
光を扱う装置等では、光学フィルタがよく使用されます。光学フィルタは、対象とする光を入射させ、目的に合った分光特性や偏光特性を持った光を透過光として取り出す光学部品です。一口に光学フィルタと言ってもその光学的特性(分光透過率特性等)はもちろん、それを実現するための原理、素材や形状等も含めて様々な種類があり、目的・用途に応じて使い分けられています。ここでは主としてその分光特性について触れてみたいと思います。
ロングパス、ショートパス、バンドパスフィルタ
先ず、対象光の或る波長域の成分を透過抽出してそれ以外の波長域の成分はカットしたいという場合に、波長選択域を概念的に示すものとして使われる次の3種の分類表現が挙げられます。
- ロングパス(短波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも長い波長域(λ0<λ)を透過し、短い波長域(λ<λ0)をカットするフィルタ
- ショートパス(長波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも短い波長域(λ<λ0)を透過し、長い波長域(λ0<λ)をカットするフィルタ
- バンドパスフィルタ
- 特定の波長範囲(λ1~λ2)のみを透過し、その両側の波長域(λ<λ1、λ2<λ)をカットするフィルタ
防熱のために赤外線をカットする熱線吸収フィルタと呼ばれるフィルタはショートパスフィルタの一種ですし、また有害紫外線をカットするフィルタはロングパスフィルタの一種と言えます。
なお、ショートパス、ロングパス、バンドパスという分類表現は、暗黙のうちに可視域において、とか、近赤外域において、というように大雑把な対象波長域が念頭に有って使われているものです。紫外から赤外に亘る広い波長範囲全般を対象に考えると、必ずしもショートパスとかロングパスとかいう特性にはなっていない場合が多いので注意が必要です。例えば可視域でショートパス(長波長カット)と称するものであっても赤外域もカットされているとは限らず、スカスカに透過していたり、紫外域では透過せずにカットされていることが多いのが実際です。同様に可視域でバンドパスと称していても、バンドパス波長帯より遠く離れた波長域(例えば赤外域等)でも再び分光透過率が上昇していることが多いものです。従って、目的とする対象波長域以外の透過成分をカットするためのフィルタを組み合わせて使うことが多いのが現実です。
シャープカットフィルタ
このような波長域選択の機能・性能として、所定の波長帯域内では対象光の分光特性を変化させずに高い透過率でそのまま素通しして、それ以外の波長域を完全にカットしたいという厳しい要求の場合もあれば、そこまでは拘らず透過光の分光特性が多少変化を受けてもそれほど大きな問題にはならないという場合まで、色々な場合があります。
波長域選択特性が厳しい場合は、分光透過率特性が特定の波長を境にして極めて急峻に変化(上の概念図のように、例えば分光透過率がλ0=500nmの前後数nmの範囲で透過率がほぼ0%から90数%に急激に変化)する必要があり、シャープカットフィルタ と称されるフィルタが用いられます。シャープカット特性を持つフィルタの代表的なものは干渉フィルタと呼ばれるもので、透明のガラス基板の表面に誘電体光学薄膜を多層に重ねた構造のものが一般的です。これは、入射光が多層膜を通過する過程での膜内多重反射による干渉現象により、極めて急峻な分光透過率変化を達成したものです。多層膜を構成する誘電体の材質(屈折率)、膜厚、膜の層数等の組み合わせによって、ロングパス、ショートパス、バンドパスいずれにおいても、様々なシャープカット波長(λ0 ,λ1 ,λ2)のものが設計・製作されています。
バンドパスフィルタは、特定の波長範囲のみを“くり抜く”ために用いられますが、非常に狭いバンド幅の場合には殆どの場合、干渉フィルタが使われます。≪※1≫
干渉フィルタを使用する場合に特に注意しなければならないのは、フィルタへの入射角です。干渉という原理によっているために、入射角に依存して光学薄膜内での光路長が変化して干渉条件が変わってしまい、その結果入射角毎に分光透過率特性が異なってしまうということが起こってしまいます。(カタログ等に記載された分光透過率特性は通常垂直入射の場合の特性です。)従って、垂直入射ではない場合には、その入射角での分光透過率特性を予め確認しておくことが必要です。また、入射角が一定しないような場合には、分光透過率特性の変動幅が許容できるかどうか判断して使う必要があります。
透過光の分光特性変化にはあまり拘らないで、主目的の波長域の成分が概ね主成分として透過すれば良いという程度であれば後述の色フィルタが使われることも多い様です。
色フィルタ
可視域において、主に色彩を調整したり変換したりする目的で用いられるのは、一般に色フィルタと呼ばれています。これは、フィルタ内部に様々な種類の色素を含有させて、その分光吸収特性によってフィルタとしての分光透過率特性を作り出しているものが殆どです。
フィルタの素材としてはガラス製(色ガラスフィルタ)やアクリル樹脂パネル製(アクリルフィルタ)、更に樹脂フィルムシートのフィルタ(アセテートフィルタやゼラチンフィルタ等)があります。各種の色および濃度のものがあり、多くは比較的なだらかな分光透過率曲線でそれを実現しているもので、それに加えて、シャープカットのロングパスフィルタもあります。
色ガラスフィルタは、温湿度等の環境耐久性に優れているという長所がある一方、(面積の大きい場合には)ショックで割れやすい等の短所もあります。≪※2≫
これに対して、色フィルムシートフィルタは、色ガラスフィルタに比べて環境耐久性は一歩譲りますが、鋏やカッターで容易に切断でき、非常に薄くて実装スペースも少なく、また湾曲させて使うことも可能等、加工・実装上のメリットもあり、比較的安価で使いやすいという長所があります。
色フィルタの場合、フィルタ内に含有させて分光透過率特性を作り出している色素の吸収特性のために、通常、シャープカット特性が得られるのはロングパスフィルタだけで、ショートパスフィルタやバンドパスフィルタではシャープな特性変化が出ず、ダラダラっとした特性になっています。また、含有色素の特性から、多くの色フィルタでは、近赤外域で透過率が高くなっているものが多いので、赤外成分の存在が問題になる場合は赤外カットフィルタと重ねて使用することが必要になります。
色温度変換フィルタ
色フィルタの内で、白色光源の色味・・・・・・(相関)色温度・・・・・・を調整するために用いられるのが色温度変換フィルタで、写真撮影等でよく使われます。≪※3≫
概ねなだらかな分光透過率変化を持つフィルタで、相関色温度を下げる(赤味を強める)為には分光透過率特性が右肩上がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が上昇)、相関色温度を上げる(青味を強める)為には分光透過率特性が右肩下がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が下降)するように作られています。
NDフィルタ
用途によっては、対象の光の分光特性を変えずに強さだけを弱めたい(減光したい)という場合もあります。このような要求に対して、分光透過率が概ね一定(フラット)に作られたNDフィルタ(Neutral Density Filter)があり、どの程度減光したいかによって、様々な濃度(透過率)のものが用意されています。
NDフィルタは全波長に亘って透過率が一定(フラット)であるのが理想なのですが、NDフィルタの種類によってフラットとされる波長範囲も限られており、その範囲は様々で、また“フラットさ”の程度も色々ですので、(紫外、可視、赤外にかかわらず)使用目的とする波長範囲において特性の“フラットさ”がどの程度になっているかを確認して使用することが必要です。一般的には、色素含有型のNDフィルタ(色フィルタの一種)よりも金属薄膜を使用したNDフィルタの方が、ND特性が良好なものが多い様です。
色フィルタの応用例
例えば、照度や輝度を測定する場合、測定器のセンサーは、人間の眼の明るさに対する感度特性である標準分光視感効率V (λ) に合った分光応答度特性を持たせてやる必要があります。これを実現する方法としては、大きく分けて次の2通りのやり方があります。
- ①フィルタ方式
- センサー(シリコン受光素子等)に光学フィルタをかけてセンサーユニットとしてV (λ) 特性を実現する方法
- ②分光方式
- 分光センサーの感度特性と標準分光視感効率V (λ) との関係から、予め波長毎に補正係数を求めておき、測定対象光を測定した分光センサー出力にその補正係数を乗じて全波長域で合算(数値積分)する方法
フィルタ方式において、センサー単体の分光応答度をS0 (λ)、光学フィルタの分光透過率を
F (λ)とすると、センサーユニット全体としての分光応答度S (λ)は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)
と書くことができます。従って、このS (λ)を可能な限り、標準分光視感効率V (λ) に一致させてやることが必要になります。しかし現実には可視域全体に亘って厳密に S (λ)≡V (λ) を達成することは極めて困難で、現実には概ね S (λ)≒V (λ) ということで妥協する形で実用化されています。
この光学フィルタの分光透過率特性 F (λ) を標準分光視感効率V (λ) に精度よく近似させるのはなかなか大変なところがあり、1枚のフィルタだけで実現するのはまず無理で、2枚以上のフィルタを重ね合わせることが必要になります。具体的には、センサー単体の分光応答度S0 (λ)を測定した上で、これに対して目的関数V (λ) のピーク(555 nm)より短波長側の傾斜特性を達成するようなアンバー色系統の色フィルタ(分光透過率F1(λ) )を、また、長波長側の傾斜特性を達成するようなシアン色系統の色フィルタ(分光透過率F2(λ) )をかけるようにします。2種のフィルタを重ねた合成フィルタの分光透過率は F (λ)=F1(λ)・F2(λ) となり、センサーユニットの合成分光応答度は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)=S0 (λ)・F1(λ)・F2(λ)
となります。色フィルタには様々な濃度・特性のものがありますのでそれらの内からS (λ) を目的関数のV (λ) に極力近似させるようにフィルタF1(λ)、F2(λ) を選択する訳です。以上の説明はアンバー色フィルタとシアン色フィルタの2種で説明しましたが、近似精度を上げるためには、実際には更に微調整用のフィルタを追加してやる必要も出てきます≪※4≫。ただ、フィルタの枚数が増えるほど透過光束は低下して、測定器としての感度不足(ダイナミックレンジ下限の上昇)になってしまいますので、悩ましいところではあります。
注釈
≪※1≫ 狭帯域バンドパスフィルタ
狭帯域のバンドパスフィルタの場合は、シャープカットと言えども、完全な矩形波状の分光透過率特性にするのは困難なため、透過光の分光透過率特性の保存はかなり難しく、多くの場合は対象狭帯域のエネルギー成分を極力多く抽出するという目的で使用されます。
≪※2≫ 色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率
色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率 通常、色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等は特定の厚みのもの(例えば厚さ2.5 mm)が標準品として販売されています。これらのフィルタは素材の厚みに応じて含有色素量も変わるため分光透過率特性は厚みに依存して変化します。標準品では所望の分光透過率特性が十分達成しきれない場合もありますので、このような場合にはフィルタを薄く研磨したり、複数枚のフィルタを重ねて併用することが必要になる場合もあります。
≪※3≫ 写真用色温度変換フィルタ
近年、写真撮影は殆どデジタルカメラになってきましたので、写真撮影時の色温度調整はホワイトバランス機能をうまく使って色温度変換フィルタを使わずに撮影するということが多くなっています。
≪※4≫ 紫外、赤外域の完全カット
実際には、可視域の分光応答度特性の作り込みに加えて、紫外、赤外域を完全にカットすることが必要です。アンバー色系統、シアン色系統の色フィルタは赤外域で透過率が上昇しているものが多いため、その波長帯にセンサー単体の分光応答度S0 (λ) に感度がある場合には、それをカットするフィルタを更に組み合わせる必要があります。
光と色の話 第二部
第2回 光学フィルタ
光を扱う装置等では、光学フィルタがよく使用されます。光学フィルタは、対象とする光を入射させ、目的に合った分光特性や偏光特性を持った光を透過光として取り出す光学部品です。一口に光学フィルタと言ってもその光学的特性(分光透過率特性等)はもちろん、それを実現するための原理、素材や形状等も含めて様々な種類があり、目的・用途に応じて使い分けられています。ここでは主としてその分光特性について触れてみたいと思います。
ロングパス、ショートパス、バンドパスフィルタ
先ず、対象光の或る波長域の成分を透過抽出してそれ以外の波長域の成分はカットしたいという場合に、波長選択域を概念的に示すものとして使われる次の3種の分類表現が挙げられます。
- ロングパス(短波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも長い波長域(λ0<λ)を透過し、短い波長域(λ<λ0)をカットするフィルタ
- ショートパス(長波長カット)フィルタ
- 所定の波長(λ0)よりも短い波長域(λ<λ0)を透過し、長い波長域(λ0<λ)をカットするフィルタ
- バンドパスフィルタ
- 特定の波長範囲(λ1~λ2)のみを透過し、その両側の波長域(λ<λ1、λ2<λ)をカットするフィルタ
防熱のために赤外線をカットする熱線吸収フィルタと呼ばれるフィルタはショートパスフィルタの一種ですし、また有害紫外線をカットするフィルタはロングパスフィルタの一種と言えます。
なお、ショートパス、ロングパス、バンドパスという分類表現は、暗黙のうちに可視域において、とか、近赤外域において、というように大雑把な対象波長域が念頭に有って使われているものです。紫外から赤外に亘る広い波長範囲全般を対象に考えると、必ずしもショートパスとかロングパスとかいう特性にはなっていない場合が多いので注意が必要です。例えば可視域でショートパス(長波長カット)と称するものであっても赤外域もカットされているとは限らず、スカスカに透過していたり、紫外域では透過せずにカットされていることが多いのが実際です。同様に可視域でバンドパスと称していても、バンドパス波長帯より遠く離れた波長域(例えば赤外域等)でも再び分光透過率が上昇していることが多いものです。従って、目的とする対象波長域以外の透過成分をカットするためのフィルタを組み合わせて使うことが多いのが現実です。
シャープカットフィルタ
このような波長域選択の機能・性能として、所定の波長帯域内では対象光の分光特性を変化させずに高い透過率でそのまま素通しして、それ以外の波長域を完全にカットしたいという厳しい要求の場合もあれば、そこまでは拘らず透過光の分光特性が多少変化を受けてもそれほど大きな問題にはならないという場合まで、色々な場合があります。
波長域選択特性が厳しい場合は、分光透過率特性が特定の波長を境にして極めて急峻に変化(上の概念図のように、例えば分光透過率がλ0=500nmの前後数nmの範囲で透過率がほぼ0%から90数%に急激に変化)する必要があり、シャープカットフィルタ と称されるフィルタが用いられます。シャープカット特性を持つフィルタの代表的なものは干渉フィルタと呼ばれるもので、透明のガラス基板の表面に誘電体光学薄膜を多層に重ねた構造のものが一般的です。これは、入射光が多層膜を通過する過程での膜内多重反射による干渉現象により、極めて急峻な分光透過率変化を達成したものです。多層膜を構成する誘電体の材質(屈折率)、膜厚、膜の層数等の組み合わせによって、ロングパス、ショートパス、バンドパスいずれにおいても、様々なシャープカット波長(λ0 ,λ1 ,λ2)のものが設計・製作されています。
バンドパスフィルタは、特定の波長範囲のみを“くり抜く”ために用いられますが、非常に狭いバンド幅の場合には殆どの場合、干渉フィルタが使われます。≪※1≫
干渉フィルタを使用する場合に特に注意しなければならないのは、フィルタへの入射角です。干渉という原理によっているために、入射角に依存して光学薄膜内での光路長が変化して干渉条件が変わってしまい、その結果入射角毎に分光透過率特性が異なってしまうということが起こってしまいます。(カタログ等に記載された分光透過率特性は通常垂直入射の場合の特性です。)従って、垂直入射ではない場合には、その入射角での分光透過率特性を予め確認しておくことが必要です。また、入射角が一定しないような場合には、分光透過率特性の変動幅が許容できるかどうか判断して使う必要があります。
透過光の分光特性変化にはあまり拘らないで、主目的の波長域の成分が概ね主成分として透過すれば良いという程度であれば後述の色フィルタが使われることも多い様です。
色フィルタ
可視域において、主に色彩を調整したり変換したりする目的で用いられるのは、一般に色フィルタと呼ばれています。これは、フィルタ内部に様々な種類の色素を含有させて、その分光吸収特性によってフィルタとしての分光透過率特性を作り出しているものが殆どです。
フィルタの素材としてはガラス製(色ガラスフィルタ)やアクリル樹脂パネル製(アクリルフィルタ)、更に樹脂フィルムシートのフィルタ(アセテートフィルタやゼラチンフィルタ等)があります。各種の色および濃度のものがあり、多くは比較的なだらかな分光透過率曲線でそれを実現しているもので、それに加えて、シャープカットのロングパスフィルタもあります。
色ガラスフィルタは、温湿度等の環境耐久性に優れているという長所がある一方、(面積の大きい場合には)ショックで割れやすい等の短所もあります。≪※2≫
これに対して、色フィルムシートフィルタは、色ガラスフィルタに比べて環境耐久性は一歩譲りますが、鋏やカッターで容易に切断でき、非常に薄くて実装スペースも少なく、また湾曲させて使うことも可能等、加工・実装上のメリットもあり、比較的安価で使いやすいという長所があります。
色フィルタの場合、フィルタ内に含有させて分光透過率特性を作り出している色素の吸収特性のために、通常、シャープカット特性が得られるのはロングパスフィルタだけで、ショートパスフィルタやバンドパスフィルタではシャープな特性変化が出ず、ダラダラっとした特性になっています。また、含有色素の特性から、多くの色フィルタでは、近赤外域で透過率が高くなっているものが多いので、赤外成分の存在が問題になる場合は赤外カットフィルタと重ねて使用することが必要になります。
色温度変換フィルタ
色フィルタの内で、白色光源の色味・・・・・・(相関)色温度・・・・・・を調整するために用いられるのが色温度変換フィルタで、写真撮影等でよく使われます。≪※3≫
概ねなだらかな分光透過率変化を持つフィルタで、相関色温度を下げる(赤味を強める)為には分光透過率特性が右肩上がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が上昇)、相関色温度を上げる(青味を強める)為には分光透過率特性が右肩下がり(可視域において波長が長くなるほど透過率が下降)するように作られています。
NDフィルタ
用途によっては、対象の光の分光特性を変えずに強さだけを弱めたい(減光したい)という場合もあります。このような要求に対して、分光透過率が概ね一定(フラット)に作られたNDフィルタ(Neutral Density Filter)があり、どの程度減光したいかによって、様々な濃度(透過率)のものが用意されています。
NDフィルタは全波長に亘って透過率が一定(フラット)であるのが理想なのですが、NDフィルタの種類によってフラットとされる波長範囲も限られており、その範囲は様々で、また“フラットさ”の程度も色々ですので、(紫外、可視、赤外にかかわらず)使用目的とする波長範囲において特性の“フラットさ”がどの程度になっているかを確認して使用することが必要です。一般的には、色素含有型のNDフィルタ(色フィルタの一種)よりも金属薄膜を使用したNDフィルタの方が、ND特性が良好なものが多い様です。
色フィルタの応用例
例えば、照度や輝度を測定する場合、測定器のセンサーは、人間の眼の明るさに対する感度特性である標準分光視感効率V (λ) に合った分光応答度特性を持たせてやる必要があります。これを実現する方法としては、大きく分けて次の2通りのやり方があります。
- ①フィルタ方式
- センサー(シリコン受光素子等)に光学フィルタをかけてセンサーユニットとしてV (λ) 特性を実現する方法
- ②分光方式
- 分光センサーの感度特性と標準分光視感効率V (λ) との関係から、予め波長毎に補正係数を求めておき、測定対象光を測定した分光センサー出力にその補正係数を乗じて全波長域で合算(数値積分)する方法
フィルタ方式において、センサー単体の分光応答度をS0 (λ)、光学フィルタの分光透過率を
F (λ)とすると、センサーユニット全体としての分光応答度S (λ)は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)
と書くことができます。従って、このS (λ)を可能な限り、標準分光視感効率V (λ) に一致させてやることが必要になります。しかし現実には可視域全体に亘って厳密に S (λ)≡V (λ) を達成することは極めて困難で、現実には概ね S (λ)≒V (λ) ということで妥協する形で実用化されています。
この光学フィルタの分光透過率特性 F (λ) を標準分光視感効率V (λ) に精度よく近似させるのはなかなか大変なところがあり、1枚のフィルタだけで実現するのはまず無理で、2枚以上のフィルタを重ね合わせることが必要になります。具体的には、センサー単体の分光応答度S0 (λ)を測定した上で、これに対して目的関数V (λ) のピーク(555 nm)より短波長側の傾斜特性を達成するようなアンバー色系統の色フィルタ(分光透過率F1(λ) )を、また、長波長側の傾斜特性を達成するようなシアン色系統の色フィルタ(分光透過率F2(λ) )をかけるようにします。2種のフィルタを重ねた合成フィルタの分光透過率は F (λ)=F1(λ)・F2(λ) となり、センサーユニットの合成分光応答度は
S (λ)=S0 (λ)・F (λ)=S0 (λ)・F1(λ)・F2(λ)
となります。色フィルタには様々な濃度・特性のものがありますのでそれらの内からS (λ) を目的関数のV (λ) に極力近似させるようにフィルタF1(λ)、F2(λ) を選択する訳です。以上の説明はアンバー色フィルタとシアン色フィルタの2種で説明しましたが、近似精度を上げるためには、実際には更に微調整用のフィルタを追加してやる必要も出てきます≪※4≫。ただ、フィルタの枚数が増えるほど透過光束は低下して、測定器としての感度不足(ダイナミックレンジ下限の上昇)になってしまいますので、悩ましいところではあります。
注釈
≪※1≫ 狭帯域バンドパスフィルタ
狭帯域のバンドパスフィルタの場合は、シャープカットと言えども、完全な矩形波状の分光透過率特性にするのは困難なため、透過光の分光透過率特性の保存はかなり難しく、多くの場合は対象狭帯域のエネルギー成分を極力多く抽出するという目的で使用されます。
≪※2≫ 色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率
色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等の厚みと分光透過率 通常、色ガラスフィルタやアクリルフィルタ等は特定の厚みのもの(例えば厚さ2.5 mm)が標準品として販売されています。これらのフィルタは素材の厚みに応じて含有色素量も変わるため分光透過率特性は厚みに依存して変化します。標準品では所望の分光透過率特性が十分達成しきれない場合もありますので、このような場合にはフィルタを薄く研磨したり、複数枚のフィルタを重ねて併用することが必要になる場合もあります。
≪※3≫ 写真用色温度変換フィルタ
近年、写真撮影は殆どデジタルカメラになってきましたので、写真撮影時の色温度調整はホワイトバランス機能をうまく使って色温度変換フィルタを使わずに撮影するということが多くなっています。
≪※4≫ 紫外、赤外域の完全カット
実際には、可視域の分光応答度特性の作り込みに加えて、紫外、赤外域を完全にカットすることが必要です。アンバー色系統、シアン色系統の色フィルタは赤外域で透過率が上昇しているものが多いため、その波長帯にセンサー単体の分光応答度S0 (λ) に感度がある場合には、それをカットするフィルタを更に組み合わせる必要があります。