光と色の話 第一部
第25回 人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その2)
・・・・・ 人の眼の白黒判断 と カメラの「適正露出」 ・・・・・
前回は、人の眼と器械(カメラ)の眼の構造的・機能的な観点からの類似点と相違点について比較してみました。今回と次回にわたって、もう少し具体的に、人間が視界の明暗を認識する仕組みと、カメラの露出制御を比較してみましょう。
人間の眼の白黒(明暗)認識
私たち人間は、視界に入ってくる情景を見て、「黒い」とか「白い」というように明るさを無意識のうちに認識しています。「黒い(暗い)」ということは、眼に入射する光が非常に弱いために、視細胞を殆ど刺激しない状態であり、また「白い(明るい)」ということは、眼に入射する光が強いために、視細胞( L 、 M 、 S 錐体)がほぼ同等の強い刺激を受ける状態である、ということができます。つまり、肉眼の検出器である視細胞が受ける刺激の強さによって明暗を認識している、と大雑把には言えそうです。それはそれで間違いではないのですが、実際に私たちが「明るさ」を認識する仕組みは、それほど単純なものではありません。
外部から遮蔽された密室の白壁に 1 枚の黒い紙が貼られていて、それが照度 10 lx で照明されているとします。黒の貼紙の正面の壁に小さな覗き穴があり、その穴を通して部屋の中を覗くと、貼紙の一部だけが見えるとします。(貼紙の外側の壁面は見えていません。) この時、覗いた人は、穴を通して見える貼紙の色が、黒なのか灰色なのか、はっきりとは認識できません。
次に、貼紙を照明する電灯を明るくして、100 倍の明るさ(照度 1000 lx )で照明したとします。覗き穴から見ている人は、10 lx の時に比べてかなり明るくなったことはわかるのですが、それでもまだ黒なのか灰色なのか確信が持てません。≪※1≫
この状態から、覗き穴を大きくするとどうでしょうか。貼紙の外側の壁面が視界に入ってきます。壁面も 1000 lx で照明されていますが、貼紙に対して格段に反射率が高いので、貼紙に比べて非常に明るく見えることになります。ここで、肉眼は初めて壁面が白、貼紙が黒と判断することになります。
肉眼は視界の中での相対的輝度比(コントラスト)で明暗を認識
2つ目の例として、或る光源の下で、白い台紙の上に置かれた石炭を見ている場面を考えてみます。例えば、石炭の反射率が
ρC =4 % 、台紙の反射率が ρP = 88 % で、これらを照明する光の照度が 100 lx であったとします。私たちはこの場面を見て、当然のように(上記の例での覗き穴が大きい場合と同じように)石炭を「黒」、台紙を「白」と認識します。
本連載の第 9 回「輝度の性質」で説明しましたように、私たちの肉眼は、視界の物体の明るさを「輝度」で評価しています。また、本連載の第 10 回「反射面における照度と輝度の関係」に示しましたように、同一照度下では、反射面の輝度は反射率に比例する、という関係があります。また、物体面を特定すれば(反射率値を固定すれば)反射面の輝度は照度に比例する、という関係があります。≪※2≫
従って、下図(照度 100 lx )の場合、台紙の輝度( 28 cd / m2 )は石炭の輝度( 1.27 cd / m2 )の反射率比分
( ρP / ρC = 22 )、すなわち 22 倍の高輝度になっています。
つまり、石炭からの光に対して台紙からの光は視細胞に強い刺激を与えていることになり、そのために人間の眼は「白黒」を判断していると言えそうな気がします。しかし、実際にはこれだけでは十分には説明しきれません。
次に、照明光をもっと明るくすればどうなるでしょう。例えば上図のように 100 倍の照度 10000 lx で照明した場合、石炭表面の輝度は、127 cd / m2 になります。照度が 100 lx の時に白く見えていた台紙の輝度( 28 cd / m2 )よりも、石炭の輝度の方がはるかに高くなっているのに、実際にはやはり石炭は黒く見えます。なぜでしょう? 実はこの時、台紙上の照度も当然 100 倍になっていますので、台紙の輝度も 100 倍の 2800 cd / m2、つまり、石炭の輝度( 127 cd / m2 )の 22 倍になっています。つまり、肉眼は、物体表面の輝度の「絶対値」で白黒(明暗)を判断しているのではなく、相対的な「輝度比(コントラスト)」によって、白黒(明暗)を判断している訳です。
瞳孔径と視細胞感度レベルの生理的最適制御
肉眼に入射する、石炭と台紙の輝度比は、(通常の場合)照明光の照度レベルとは直接の関係はなく、以下に述べますように、視界の最高輝度と最低輝度が肉眼の感度範囲(ダイナミックレンジ)に収まるように、照明条件に応じて視覚に生理的フィードバックがかかるようになっているのです。
前回(第 24 回)『人の眼と器械(カメラ)の眼(その 1 )』で説明しましたように、明るさに対する肉眼のダイナミックレンジは元々それほど広い訳ではありません。眼への入射光が強くなると肉眼の虹彩(瞳孔)が絞られて網膜面照度を低下させるとともに、視細胞の感度が下がるように生理的フィードバックがかかることにより、視界の明るさレベルに応じて総合的にある程度のダイナミックレンジを確保するようになっています。
同時に見渡される視界の中で最も高輝度の部分と最も低輝度の部分を、肉眼感度範囲(ダイナミックレンジ)の概ね上端と下端に位置づけるように瞳孔や視細胞感度に自動的に生理的フィードバックがかかる訳です。(光沢が非常に強い反射面を見たときのように)視界の中でのコントラストが極端に大き過ぎると、生理的フィードバックがかかってもなお肉眼感度範囲内に納まりきれないことが起こります。この場合、高輝度部分は視細胞の感度範囲をオーバーフローしてしまい、その結果、その部分が非常に眩しく感じるということになる訳ですね。
以上が我々人間の眼が「白黒」を認識する仕組みの大枠の説明です。
カメラの露出制御と肉眼の明暗認識
これに対して、カメラの露出制御はどのような仕組みになっているのでしょうか?
カメラの撮影画像の明暗(白黒)も、肉眼の明暗認識の仕組みと類似しています。機能的には、カメラの絞りが肉眼の虹彩に、撮像媒体(デジタルカメラにおいては、CCD などの撮像素子、銀塩カメラにおいてはフィルム)が肉眼の網膜(視細胞)に対応します。カメラの撮影レンズを通過する光(すなわち撮像面照度)を制御するのが絞りであり、撮像媒体の感度( ISO 感度)が視細胞の感度に対応します。カメラの場合は、撮像媒体の露光量は、通常、撮像面照度(絞りによって制御)と、露光時間(シャッターによって制御)の両者の積で決まります≪※3≫。
この露光量が、撮像媒体感度のダイナミックレンジ内にうまく納まるように、絞りと露光時間の組み合わせを選定してやる作業が露出制御といわれるものです。当然カメラでは、撮像媒体の感度が異なれば、それに適切に対応できるように、露光量(絞りと露光時間の組み合わせ)を変えることになります。なお、肉眼の場合にはシャッター速度の制御に対応する機能は無く、その代わりに撮像媒体に対応する視細胞の感度レベルが生理的に変化することになります。
以上のように、肉眼は、物体面の輝度の絶対値で白黒を判断しているのではなく、視細胞の感度範囲(ダイナミックレンジ)に視界の高輝度部分と低輝度部分をうまく納めるように、目の瞳孔径や視細胞の感度レベルを生理的に調整していることをご理解いただけたのではないかと思います。カメラの露出制御は、肉眼での明暗認識によく似ている、と言いますが、肉眼の明暗認識の仕組みを参考にしてカメラの自動露出制御が達成された、と言った方がよいかもしれません。
カメラの露出制御パラメータ
カメラの露出を決める要素は 4 つあります。
- 被写体の輝度 : B [ cd / m2 ]
- 絞り値( F ナンバー): A
- 露光時間 : T [秒]
- 撮像媒体の感度 : Sx
この内、カメラでコントロールできるのは、フィルムカメラの場合は絞り値( A )と露光時間( T )です。≪※3≫
被写体輝度 B は、照明光源と被写体とカメラの関係(照明の明るさや、相互の位置関係、被写体の光学的特性など)によって決まりますが、一旦それらの関係が決まれば、通常はカメラとしては制御対象外です≪※4≫。
今、最も単純な場合として、照明光が定常光(撮影途中で明るさが変動しない、すなわち被写体輝度 B が一定)の場合について、適正露出を達成するために、カメラがどのようにして上述のパラメータ間の関係を制御しているのかをお話しましょう。
定常光撮影の場合の「適正露出」の条件
撮像媒体の露光に直接寄与する光量 Q1 は、撮像媒体面の照度 E ( = 一定 )と露光時間 T の積で決まります。
Q1 = E・T
この撮像媒体面照度 E は、被写体からの光(輝度 B )が撮影レンズの絞り(絞り値 A )を通して撮像媒体面に達した結果得られるものですから
( k1 :定数)
と表すことができます≪※5≫。従って、露光量 Q1 は
と書けます。
一方、感度 Sx の撮像媒体が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がる為に必要な露光量 Q2 は、
( k2 :定数)
と書けます。(撮影媒体の感度 Sx が高いほど、少ない光量で中庸な濃度に仕上がります。)
従って、 Q1 = Q2 すなわち
となった場合に、適正な露出が達成されることになります。
つまり、この関係式を成り立たせるために、与えられた撮影条件の下で適正な露出が得られるように、任意の被写体輝度 B に対して、 Q1 = Q2 となるように、 A 、T 、Sx 、の組み合わせを決める作業が露出制御ということになります。「明るさ」を測って、この作業を自動的に行うのがカメラの自動露出制御です。
実はこの場合、「明るさ」の測り方には二通りの方式があります。一つは、カメラ側から被写体面の輝度 B を直接測る方式、もう一つは、被写体位置で照明光の明るさ(被写体面照度 I )を測る方式です。
前者を反射光式露出制御 後者を 入射光式露出制御 と呼んでいます。この内、肉眼の明暗(白黒)判断の仕組みに似ているのが ① の反射光式露出制御です。
次回は、上記の適正露出条件を達成するために、カメラが実際にどのような露出制御を行っているかについて、反射光式露出制御 と 入射光式露出制御 それぞれについてお話します。
注釈
≪※1≫ 色情報の心理的効果の伝達過程
理想の「黒い」紙とは、その紙に入射した光が全て吸収されてしまい、反射がゼロ、というもので、物理学ではこれを「黒体( black body )」と呼んでいます。理想の黒(黒体)の場合には、どんなに強く照明しても反射される光がありませんので、照明光の強さに関係なく「真っ黒」に見えてしまいます。しかし、現実の「黒い」紙の場合には、数%程度の反射があります。つまり、照明光を強くすればそれに比例して反射光も強くなりますので、例えば照度を10 lx から1000 lx に100倍明るくすると、反射光も100 倍となり、相対的には「明るく」なったと認識することになります。
≪※2≫ 「反射率」
ここでは、直感的な解りやすさを優先して、馴染みの深い用語である「反射率」を用いて説明しましたが、正確には「輝度率」のことです。本連載第10回 『反射面における照度と輝度の関係』の註釈≪※2≫をご参照下さい。
≪※3≫ カメラの露光量調節手段
カメラの撮像媒体(撮像素子や銀塩フィルム)の写真としての仕上がり濃度は、撮像媒体に照射される光量(像面照度と露光時間の積)とそれを受ける撮像媒体の感度との関係で決まります。フィルムカメラもデジタルカメラも、像面照度はカメラの絞りで、また露光時間はシャッターで制御されますが、撮影媒体の感度については両者の間で取扱いがいささか異なります。
銀塩フィルムの場合は、フィルムの感度は固定ですので、そのフィルムをカメラに装填すれば、原則的には感度を変更制御することはできず、露出制御は絞りとシャッターの 2 要素のみの組み合わせによることになります。従って、例えば被写体が非常に暗くて絞りを開放にしてかつ最長露光時間で撮影しても十分な濃度の写真にならない場合などは、より高感度のフィルムに入れ替えて撮影することになります。
一方、デジタルカメラでは、撮像素子の感度まで電気的にコントロール可能ですので、絞り、シャッターに加えて撮像素子の感度制御も併せて露出調節を行うことができます。
ここでは、(時代遅れかもしれませんが)解りやすさを優先して、制御因子が2つだけの銀塩フィルムの場合で露光量制御の話を進めることにします。
≪※4≫ 被写体輝度 B の制御
カメラの撮像媒体の感度レベルに対して、被写体輝度が低すぎる(暗すぎる)場合によく行われるのは、露光タイミングに同期させてフラッシュを発光させることによって被写体輝度を上げ、適正露出を達成する方法です。この場合の露出制御方法については、次回にお話します。
≪※5≫ 絞り値 A と露光量 Q1 の関係
絞り値 A は、撮影レンズの F ナンバーと呼ばれる数値なのですが、この F ナンバーは、
レンズの絞り径(有効口径 D )と 焦点距離 f によって決まる数値で、
A ( F ナンバー )= f / D ですので、絞りを開けるほど絞り値 A は小さい数値になります。
露光に寄与する光束(レンズを通過する光束)は、絞りの面積に比例しますので、絞りの径 D の自乗に比例することになります。
結局、露光量 Q1 は絞り値 A の自乗に反比例することになります。
光と色の話 第一部
第25回 人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その2)
・・・・・ 人の眼の白黒判断 と カメラの「適正露出」 ・・・・・
前回は、人の眼と器械(カメラ)の眼の構造的・機能的な観点からの類似点と相違点について比較してみました。今回と次回にわたって、もう少し具体的に、人間が視界の明暗を認識する仕組みと、カメラの露出制御を比較してみましょう。
人間の眼の白黒(明暗)認識
私たち人間は、視界に入ってくる情景を見て、「黒い」とか「白い」というように明るさを無意識のうちに認識しています。「黒い(暗い)」ということは、眼に入射する光が非常に弱いために、視細胞を殆ど刺激しない状態であり、また「白い(明るい)」ということは、眼に入射する光が強いために、視細胞( L 、 M 、 S 錐体)がほぼ同等の強い刺激を受ける状態である、ということができます。つまり、肉眼の検出器である視細胞が受ける刺激の強さによって明暗を認識している、と大雑把には言えそうです。それはそれで間違いではないのですが、実際に私たちが「明るさ」を認識する仕組みは、それほど単純なものではありません。
外部から遮蔽された密室の白壁に 1 枚の黒い紙が貼られていて、それが照度 10 lx で照明されているとします。黒の貼紙の正面の壁に小さな覗き穴があり、その穴を通して部屋の中を覗くと、貼紙の一部だけが見えるとします。(貼紙の外側の壁面は見えていません。) この時、覗いた人は、穴を通して見える貼紙の色が、黒なのか灰色なのか、はっきりとは認識できません。
次に、貼紙を照明する電灯を明るくして、100 倍の明るさ(照度 1000 lx )で照明したとします。覗き穴から見ている人は、10 lx の時に比べてかなり明るくなったことはわかるのですが、それでもまだ黒なのか灰色なのか確信が持てません。≪※1≫
この状態から、覗き穴を大きくするとどうでしょうか。貼紙の外側の壁面が視界に入ってきます。壁面も 1000 lx で照明されていますが、貼紙に対して格段に反射率が高いので、貼紙に比べて非常に明るく見えることになります。ここで、肉眼は初めて壁面が白、貼紙が黒と判断することになります。
肉眼は視界の中での相対的輝度比(コントラスト)で明暗を認識
2つ目の例として、或る光源の下で、白い台紙の上に置かれた石炭を見ている場面を考えてみます。例えば、石炭の反射率が
ρC =4 % 、台紙の反射率が ρP = 88 % で、これらを照明する光の照度が 100 lx であったとします。私たちはこの場面を見て、当然のように(上記の例での覗き穴が大きい場合と同じように)石炭を「黒」、台紙を「白」と認識します。
本連載の第 9 回「輝度の性質」で説明しましたように、私たちの肉眼は、視界の物体の明るさを「輝度」で評価しています。また、本連載の第 10 回「反射面における照度と輝度の関係」に示しましたように、同一照度下では、反射面の輝度は反射率に比例する、という関係があります。また、物体面を特定すれば(反射率値を固定すれば)反射面の輝度は照度に比例する、という関係があります。≪※2≫
従って、下図(照度 100 lx )の場合、台紙の輝度( 28 cd / m2 )は石炭の輝度( 1.27 cd / m2 )の反射率比分
( ρP / ρC = 22 )、すなわち 22 倍の高輝度になっています。
つまり、石炭からの光に対して台紙からの光は視細胞に強い刺激を与えていることになり、そのために人間の眼は「白黒」を判断していると言えそうな気がします。しかし、実際にはこれだけでは十分には説明しきれません。
次に、照明光をもっと明るくすればどうなるでしょう。例えば上図のように 100 倍の照度 10000 lx で照明した場合、石炭表面の輝度は、127 cd / m2 になります。照度が 100 lx の時に白く見えていた台紙の輝度( 28 cd / m2 )よりも、石炭の輝度の方がはるかに高くなっているのに、実際にはやはり石炭は黒く見えます。なぜでしょう? 実はこの時、台紙上の照度も当然 100 倍になっていますので、台紙の輝度も 100 倍の 2800 cd / m2、つまり、石炭の輝度( 127 cd / m2 )の 22 倍になっています。つまり、肉眼は、物体表面の輝度の「絶対値」で白黒(明暗)を判断しているのではなく、相対的な「輝度比(コントラスト)」によって、白黒(明暗)を判断している訳です。
瞳孔径と視細胞感度レベルの生理的最適制御
肉眼に入射する、石炭と台紙の輝度比は、(通常の場合)照明光の照度レベルとは直接の関係はなく、以下に述べますように、視界の最高輝度と最低輝度が肉眼の感度範囲(ダイナミックレンジ)に収まるように、照明条件に応じて視覚に生理的フィードバックがかかるようになっているのです。
前回(第 24 回)『人の眼と器械(カメラ)の眼(その 1 )』で説明しましたように、明るさに対する肉眼のダイナミックレンジは元々それほど広い訳ではありません。眼への入射光が強くなると肉眼の虹彩(瞳孔)が絞られて網膜面照度を低下させるとともに、視細胞の感度が下がるように生理的フィードバックがかかることにより、視界の明るさレベルに応じて総合的にある程度のダイナミックレンジを確保するようになっています。
同時に見渡される視界の中で最も高輝度の部分と最も低輝度の部分を、肉眼感度範囲(ダイナミックレンジ)の概ね上端と下端に位置づけるように瞳孔や視細胞感度に自動的に生理的フィードバックがかかる訳です。(光沢が非常に強い反射面を見たときのように)視界の中でのコントラストが極端に大き過ぎると、生理的フィードバックがかかってもなお肉眼感度範囲内に納まりきれないことが起こります。この場合、高輝度部分は視細胞の感度範囲をオーバーフローしてしまい、その結果、その部分が非常に眩しく感じるということになる訳ですね。
以上が我々人間の眼が「白黒」を認識する仕組みの大枠の説明です。
カメラの露出制御と肉眼の明暗認識
これに対して、カメラの露出制御はどのような仕組みになっているのでしょうか?
カメラの撮影画像の明暗(白黒)も、肉眼の明暗認識の仕組みと類似しています。機能的には、カメラの絞りが肉眼の虹彩に、撮像媒体(デジタルカメラにおいては、CCD などの撮像素子、銀塩カメラにおいてはフィルム)が肉眼の網膜(視細胞)に対応します。カメラの撮影レンズを通過する光(すなわち撮像面照度)を制御するのが絞りであり、撮像媒体の感度( ISO 感度)が視細胞の感度に対応します。カメラの場合は、撮像媒体の露光量は、通常、撮像面照度(絞りによって制御)と、露光時間(シャッターによって制御)の両者の積で決まります≪※3≫。
この露光量が、撮像媒体感度のダイナミックレンジ内にうまく納まるように、絞りと露光時間の組み合わせを選定してやる作業が露出制御といわれるものです。当然カメラでは、撮像媒体の感度が異なれば、それに適切に対応できるように、露光量(絞りと露光時間の組み合わせ)を変えることになります。なお、肉眼の場合にはシャッター速度の制御に対応する機能は無く、その代わりに撮像媒体に対応する視細胞の感度レベルが生理的に変化することになります。
以上のように、肉眼は、物体面の輝度の絶対値で白黒を判断しているのではなく、視細胞の感度範囲(ダイナミックレンジ)に視界の高輝度部分と低輝度部分をうまく納めるように、目の瞳孔径や視細胞の感度レベルを生理的に調整していることをご理解いただけたのではないかと思います。カメラの露出制御は、肉眼での明暗認識によく似ている、と言いますが、肉眼の明暗認識の仕組みを参考にしてカメラの自動露出制御が達成された、と言った方がよいかもしれません。
カメラの露出制御パラメータ
カメラの露出を決める要素は 4 つあります。
- 被写体の輝度 : B [ cd / m2 ]
- 絞り値( F ナンバー): A
- 露光時間 : T [秒]
- 撮像媒体の感度 : Sx
この内、カメラでコントロールできるのは、フィルムカメラの場合は絞り値( A )と露光時間( T )です。≪※3≫
被写体輝度 B は、照明光源と被写体とカメラの関係(照明の明るさや、相互の位置関係、被写体の光学的特性など)によって決まりますが、一旦それらの関係が決まれば、通常はカメラとしては制御対象外です≪※4≫。
今、最も単純な場合として、照明光が定常光(撮影途中で明るさが変動しない、すなわち被写体輝度 B が一定)の場合について、適正露出を達成するために、カメラがどのようにして上述のパラメータ間の関係を制御しているのかをお話しましょう。
定常光撮影の場合の「適正露出」の条件
撮像媒体の露光に直接寄与する光量 Q1 は、撮像媒体面の照度 E ( = 一定 )と露光時間 T の積で決まります。
Q1 = E・T
この撮像媒体面照度 E は、被写体からの光(輝度 B )が撮影レンズの絞り(絞り値 A )を通して撮像媒体面に達した結果得られるものですから
( k1 :定数)
と表すことができます≪※5≫。従って、露光量 Q1 は
と書けます。
一方、感度 Sx の撮像媒体が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がる為に必要な露光量 Q2 は、
( k2 :定数)
と書けます。(撮影媒体の感度 Sx が高いほど、少ない光量で中庸な濃度に仕上がります。)
従って、 Q1 = Q2 すなわち
となった場合に、適正な露出が達成されることになります。
つまり、この関係式を成り立たせるために、与えられた撮影条件の下で適正な露出が得られるように、任意の被写体輝度 B に対して、 Q1 = Q2 となるように、 A 、T 、Sx 、の組み合わせを決める作業が露出制御ということになります。「明るさ」を測って、この作業を自動的に行うのがカメラの自動露出制御です。
実はこの場合、「明るさ」の測り方には二通りの方式があります。一つは、カメラ側から被写体面の輝度 B を直接測る方式、もう一つは、被写体位置で照明光の明るさ(被写体面照度 I )を測る方式です。
前者を反射光式露出制御 後者を 入射光式露出制御 と呼んでいます。この内、肉眼の明暗(白黒)判断の仕組みに似ているのが ① の反射光式露出制御です。
次回は、上記の適正露出条件を達成するために、カメラが実際にどのような露出制御を行っているかについて、反射光式露出制御 と 入射光式露出制御 それぞれについてお話します。
注釈
≪※1≫ 色情報の心理的効果の伝達過程
理想の「黒い」紙とは、その紙に入射した光が全て吸収されてしまい、反射がゼロ、というもので、物理学ではこれを「黒体( black body )」と呼んでいます。理想の黒(黒体)の場合には、どんなに強く照明しても反射される光がありませんので、照明光の強さに関係なく「真っ黒」に見えてしまいます。しかし、現実の「黒い」紙の場合には、数%程度の反射があります。つまり、照明光を強くすればそれに比例して反射光も強くなりますので、例えば照度を10 lx から1000 lx に100倍明るくすると、反射光も100 倍となり、相対的には「明るく」なったと認識することになります。
≪※2≫ 「反射率」
ここでは、直感的な解りやすさを優先して、馴染みの深い用語である「反射率」を用いて説明しましたが、正確には「輝度率」のことです。本連載第10回 『反射面における照度と輝度の関係』の註釈≪※2≫をご参照下さい。
≪※3≫ カメラの露光量調節手段
カメラの撮像媒体(撮像素子や銀塩フィルム)の写真としての仕上がり濃度は、撮像媒体に照射される光量(像面照度と露光時間の積)とそれを受ける撮像媒体の感度との関係で決まります。フィルムカメラもデジタルカメラも、像面照度はカメラの絞りで、また露光時間はシャッターで制御されますが、撮影媒体の感度については両者の間で取扱いがいささか異なります。
銀塩フィルムの場合は、フィルムの感度は固定ですので、そのフィルムをカメラに装填すれば、原則的には感度を変更制御することはできず、露出制御は絞りとシャッターの 2 要素のみの組み合わせによることになります。従って、例えば被写体が非常に暗くて絞りを開放にしてかつ最長露光時間で撮影しても十分な濃度の写真にならない場合などは、より高感度のフィルムに入れ替えて撮影することになります。
一方、デジタルカメラでは、撮像素子の感度まで電気的にコントロール可能ですので、絞り、シャッターに加えて撮像素子の感度制御も併せて露出調節を行うことができます。
ここでは、(時代遅れかもしれませんが)解りやすさを優先して、制御因子が2つだけの銀塩フィルムの場合で露光量制御の話を進めることにします。
≪※4≫ 被写体輝度 B の制御
カメラの撮像媒体の感度レベルに対して、被写体輝度が低すぎる(暗すぎる)場合によく行われるのは、露光タイミングに同期させてフラッシュを発光させることによって被写体輝度を上げ、適正露出を達成する方法です。この場合の露出制御方法については、次回にお話します。
≪※5≫ 絞り値 A と露光量 Q1 の関係
絞り値 A は、撮影レンズの F ナンバーと呼ばれる数値なのですが、この F ナンバーは、
レンズの絞り径(有効口径 D )と 焦点距離 f によって決まる数値で、
A ( F ナンバー )= f / D ですので、絞りを開けるほど絞り値 A は小さい数値になります。
露光に寄与する光束(レンズを通過する光束)は、絞りの面積に比例しますので、絞りの径 D の自乗に比例することになります。
結局、露光量 Q1 は絞り値 A の自乗に反比例することになります。
光と色の話 第一部
第25回 人の眼 と 器械(カメラ)の眼(その2)
・・・・・ 人の眼の白黒判断 と カメラの「適正露出」 ・・・・・
前回は、人の眼と器械(カメラ)の眼の構造的・機能的な観点からの類似点と相違点について比較してみました。今回と次回にわたって、もう少し具体的に、人間が視界の明暗を認識する仕組みと、カメラの露出制御を比較してみましょう。
人間の眼の白黒(明暗)認識
私たち人間は、視界に入ってくる情景を見て、「黒い」とか「白い」というように明るさを無意識のうちに認識しています。「黒い(暗い)」ということは、眼に入射する光が非常に弱いために、視細胞を殆ど刺激しない状態であり、また「白い(明るい)」ということは、眼に入射する光が強いために、視細胞( L 、 M 、 S 錐体)がほぼ同等の強い刺激を受ける状態である、ということができます。つまり、肉眼の検出器である視細胞が受ける刺激の強さによって明暗を認識している、と大雑把には言えそうです。それはそれで間違いではないのですが、実際に私たちが「明るさ」を認識する仕組みは、それほど単純なものではありません。
外部から遮蔽された密室の白壁に 1 枚の黒い紙が貼られていて、それが照度 10 lx で照明されているとします。黒の貼紙の正面の壁に小さな覗き穴があり、その穴を通して部屋の中を覗くと、貼紙の一部だけが見えるとします。(貼紙の外側の壁面は見えていません。) この時、覗いた人は、穴を通して見える貼紙の色が、黒なのか灰色なのか、はっきりとは認識できません。
次に、貼紙を照明する電灯を明るくして、100 倍の明るさ(照度 1000 lx )で照明したとします。覗き穴から見ている人は、10 lx の時に比べてかなり明るくなったことはわかるのですが、それでもまだ黒なのか灰色なのか確信が持てません。≪※1≫
この状態から、覗き穴を大きくするとどうでしょうか。貼紙の外側の壁面が視界に入ってきます。壁面も 1000 lx で照明されていますが、貼紙に対して格段に反射率が高いので、貼紙に比べて非常に明るく見えることになります。ここで、肉眼は初めて壁面が白、貼紙が黒と判断することになります。
肉眼は視界の中での相対的輝度比(コントラスト)で明暗を認識
2つ目の例として、或る光源の下で、白い台紙の上に置かれた石炭を見ている場面を考えてみます。例えば、石炭の反射率が
ρC =4 % 、台紙の反射率が ρP = 88 % で、これらを照明する光の照度が 100 lx であったとします。私たちはこの場面を見て、当然のように(上記の例での覗き穴が大きい場合と同じように)石炭を「黒」、台紙を「白」と認識します。
本連載の第 9 回「輝度の性質」で説明しましたように、私たちの肉眼は、視界の物体の明るさを「輝度」で評価しています。また、本連載の第 10 回「反射面における照度と輝度の関係」に示しましたように、同一照度下では、反射面の輝度は反射率に比例する、という関係があります。また、物体面を特定すれば(反射率値を固定すれば)反射面の輝度は照度に比例する、という関係があります。≪※2≫
従って、下図(照度 100 lx )の場合、台紙の輝度( 28 cd / m2 )は石炭の輝度( 1.27 cd / m2 )の反射率比分
( ρP / ρC = 22 )、すなわち 22 倍の高輝度になっています。
つまり、石炭からの光に対して台紙からの光は視細胞に強い刺激を与えていることになり、そのために人間の眼は「白黒」を判断していると言えそうな気がします。しかし、実際にはこれだけでは十分には説明しきれません。
次に、照明光をもっと明るくすればどうなるでしょう。例えば上図のように 100 倍の照度 10000 lx で照明した場合、石炭表面の輝度は、127 cd / m2 になります。照度が 100 lx の時に白く見えていた台紙の輝度( 28 cd / m2 )よりも、石炭の輝度の方がはるかに高くなっているのに、実際にはやはり石炭は黒く見えます。なぜでしょう? 実はこの時、台紙上の照度も当然 100 倍になっていますので、台紙の輝度も 100 倍の 2800 cd / m2、つまり、石炭の輝度( 127 cd / m2 )の 22 倍になっています。つまり、肉眼は、物体表面の輝度の「絶対値」で白黒(明暗)を判断しているのではなく、相対的な「輝度比(コントラスト)」によって、白黒(明暗)を判断している訳です。
瞳孔径と視細胞感度レベルの生理的最適制御
肉眼に入射する、石炭と台紙の輝度比は、(通常の場合)照明光の照度レベルとは直接の関係はなく、以下に述べますように、視界の最高輝度と最低輝度が肉眼の感度範囲(ダイナミックレンジ)に収まるように、照明条件に応じて視覚に生理的フィードバックがかかるようになっているのです。
前回(第 24 回)『人の眼と器械(カメラ)の眼(その 1 )』で説明しましたように、明るさに対する肉眼のダイナミックレンジは元々それほど広い訳ではありません。眼への入射光が強くなると肉眼の虹彩(瞳孔)が絞られて網膜面照度を低下させるとともに、視細胞の感度が下がるように生理的フィードバックがかかることにより、視界の明るさレベルに応じて総合的にある程度のダイナミックレンジを確保するようになっています。
同時に見渡される視界の中で最も高輝度の部分と最も低輝度の部分を、肉眼感度範囲(ダイナミックレンジ)の概ね上端と下端に位置づけるように瞳孔や視細胞感度に自動的に生理的フィードバックがかかる訳です。(光沢が非常に強い反射面を見たときのように)視界の中でのコントラストが極端に大き過ぎると、生理的フィードバックがかかってもなお肉眼感度範囲内に納まりきれないことが起こります。この場合、高輝度部分は視細胞の感度範囲をオーバーフローしてしまい、その結果、その部分が非常に眩しく感じるということになる訳ですね。
以上が我々人間の眼が「白黒」を認識する仕組みの大枠の説明です。
カメラの露出制御と肉眼の明暗認識
これに対して、カメラの露出制御はどのような仕組みになっているのでしょうか?
カメラの撮影画像の明暗(白黒)も、肉眼の明暗認識の仕組みと類似しています。機能的には、カメラの絞りが肉眼の虹彩に、撮像媒体(デジタルカメラにおいては、CCD などの撮像素子、銀塩カメラにおいてはフィルム)が肉眼の網膜(視細胞)に対応します。カメラの撮影レンズを通過する光(すなわち撮像面照度)を制御するのが絞りであり、撮像媒体の感度( ISO 感度)が視細胞の感度に対応します。カメラの場合は、撮像媒体の露光量は、通常、撮像面照度(絞りによって制御)と、露光時間(シャッターによって制御)の両者の積で決まります≪※3≫。
この露光量が、撮像媒体感度のダイナミックレンジ内にうまく納まるように、絞りと露光時間の組み合わせを選定してやる作業が露出制御といわれるものです。当然カメラでは、撮像媒体の感度が異なれば、それに適切に対応できるように、露光量(絞りと露光時間の組み合わせ)を変えることになります。なお、肉眼の場合にはシャッター速度の制御に対応する機能は無く、その代わりに撮像媒体に対応する視細胞の感度レベルが生理的に変化することになります。
以上のように、肉眼は、物体面の輝度の絶対値で白黒を判断しているのではなく、視細胞の感度範囲(ダイナミックレンジ)に視界の高輝度部分と低輝度部分をうまく納めるように、目の瞳孔径や視細胞の感度レベルを生理的に調整していることをご理解いただけたのではないかと思います。カメラの露出制御は、肉眼での明暗認識によく似ている、と言いますが、肉眼の明暗認識の仕組みを参考にしてカメラの自動露出制御が達成された、と言った方がよいかもしれません。
カメラの露出制御パラメータ
カメラの露出を決める要素は 4 つあります。
- 被写体の輝度 : B [ cd / m2 ]
- 絞り値( F ナンバー): A
- 露光時間 : T [秒]
- 撮像媒体の感度 : Sx
この内、カメラでコントロールできるのは、フィルムカメラの場合は絞り値( A )と露光時間( T )です。≪※3≫
被写体輝度 B は、照明光源と被写体とカメラの関係(照明の明るさや、相互の位置関係、被写体の光学的特性など)によって決まりますが、一旦それらの関係が決まれば、通常はカメラとしては制御対象外です≪※4≫。
今、最も単純な場合として、照明光が定常光(撮影途中で明るさが変動しない、すなわち被写体輝度 B が一定)の場合について、適正露出を達成するために、カメラがどのようにして上述のパラメータ間の関係を制御しているのかをお話しましょう。
定常光撮影の場合の「適正露出」の条件
撮像媒体の露光に直接寄与する光量 Q1 は、撮像媒体面の照度 E ( = 一定 )と露光時間 T の積で決まります。
Q1 = E・T
この撮像媒体面照度 E は、被写体からの光(輝度 B )が撮影レンズの絞り(絞り値 A )を通して撮像媒体面に達した結果得られるものですから
( k1 :定数)
と表すことができます≪※5≫。従って、露光量 Q1 は
と書けます。
一方、感度 Sx の撮像媒体が中庸な濃度( neutral gray )に仕上がる為に必要な露光量 Q2 は、
( k2 :定数)
と書けます。(撮影媒体の感度 Sx が高いほど、少ない光量で中庸な濃度に仕上がります。)
従って、 Q1 = Q2 すなわち
となった場合に、適正な露出が達成されることになります。
つまり、この関係式を成り立たせるために、与えられた撮影条件の下で適正な露出が得られるように、任意の被写体輝度 B に対して、 Q1 = Q2 となるように、 A 、T 、Sx 、の組み合わせを決める作業が露出制御ということになります。「明るさ」を測って、この作業を自動的に行うのがカメラの自動露出制御です。
実はこの場合、「明るさ」の測り方には二通りの方式があります。一つは、カメラ側から被写体面の輝度 B を直接測る方式、もう一つは、被写体位置で照明光の明るさ(被写体面照度 I )を測る方式です。
前者を反射光式露出制御 後者を 入射光式露出制御 と呼んでいます。この内、肉眼の明暗(白黒)判断の仕組みに似ているのが ① の反射光式露出制御です。
次回は、上記の適正露出条件を達成するために、カメラが実際にどのような露出制御を行っているかについて、反射光式露出制御 と 入射光式露出制御 それぞれについてお話します。
注釈
≪※1≫ 色情報の心理的効果の伝達過程
理想の「黒い」紙とは、その紙に入射した光が全て吸収されてしまい、反射がゼロ、というもので、物理学ではこれを「黒体( black body )」と呼んでいます。理想の黒(黒体)の場合には、どんなに強く照明しても反射される光がありませんので、照明光の強さに関係なく「真っ黒」に見えてしまいます。しかし、現実の「黒い」紙の場合には、数%程度の反射があります。つまり、照明光を強くすればそれに比例して反射光も強くなりますので、例えば照度を10 lx から1000 lx に100倍明るくすると、反射光も100 倍となり、相対的には「明るく」なったと認識することになります。
≪※2≫ 「反射率」
ここでは、直感的な解りやすさを優先して、馴染みの深い用語である「反射率」を用いて説明しましたが、正確には「輝度率」のことです。本連載第10回 『反射面における照度と輝度の関係』の註釈≪※2≫をご参照下さい。
≪※3≫ カメラの露光量調節手段
カメラの撮像媒体(撮像素子や銀塩フィルム)の写真としての仕上がり濃度は、撮像媒体に照射される光量(像面照度と露光時間の積)とそれを受ける撮像媒体の感度との関係で決まります。フィルムカメラもデジタルカメラも、像面照度はカメラの絞りで、また露光時間はシャッターで制御されますが、撮影媒体の感度については両者の間で取扱いがいささか異なります。
銀塩フィルムの場合は、フィルムの感度は固定ですので、そのフィルムをカメラに装填すれば、原則的には感度を変更制御することはできず、露出制御は絞りとシャッターの 2 要素のみの組み合わせによることになります。従って、例えば被写体が非常に暗くて絞りを開放にしてかつ最長露光時間で撮影しても十分な濃度の写真にならない場合などは、より高感度のフィルムに入れ替えて撮影することになります。
一方、デジタルカメラでは、撮像素子の感度まで電気的にコントロール可能ですので、絞り、シャッターに加えて撮像素子の感度制御も併せて露出調節を行うことができます。
ここでは、(時代遅れかもしれませんが)解りやすさを優先して、制御因子が2つだけの銀塩フィルムの場合で露光量制御の話を進めることにします。
≪※4≫ 被写体輝度 B の制御
カメラの撮像媒体の感度レベルに対して、被写体輝度が低すぎる(暗すぎる)場合によく行われるのは、露光タイミングに同期させてフラッシュを発光させることによって被写体輝度を上げ、適正露出を達成する方法です。この場合の露出制御方法については、次回にお話します。
≪※5≫ 絞り値 A と露光量 Q1 の関係
絞り値 A は、撮影レンズの F ナンバーと呼ばれる数値なのですが、この F ナンバーは、
レンズの絞り径(有効口径 D )と 焦点距離 f によって決まる数値で、
A ( F ナンバー )= f / D ですので、絞りを開けるほど絞り値 A は小さい数値になります。
露光に寄与する光束(レンズを通過する光束)は、絞りの面積に比例しますので、絞りの径 D の自乗に比例することになります。
結局、露光量 Q1 は絞り値 A の自乗に反比例することになります。