光と色の話 第一部
第36回 身の周りの照明光源
・・・・・一般照明用ランプとしての重要特性・・・・・
照明光の特性(分光分布)に依存してモノの色の見え方は変化しますので、私たちの生活空間に用いる一般照明光源としては、モノの色が自然に(あるいは好ましく)見えるような光源が望ましい訳です。前回は、モノの色の見え方の良し悪しを評価する方法の内、“色再現の忠実性”というスタンスによる評価方法の代表として、現在世界中で広く使われている CIE 演色評価法を紹介しました。
私たちの生活空間で用いられる光源(一般に白色光源と呼ばれる光源)には、太陽光から人工光源まで様々な種類があります。一口で太陽光と言っても、その特性は季節や時刻により、また天候によっても大きく変動します。また、人工光源についても、ざっと身近なものを挙げてみても、白熱ランプ、蛍光ランプ、水銀ランプ、 LED ランプ、等々がすぐ思いつきます。更に例えば「蛍光ランプ」にも、昼光色や白色など、様々な光色の蛍光ランプが市販されています。
このように多種多様な光源が存在する中で、私たちは日常業務や生活において、その活動の目的・内容に応じて光源の種類を使い分けています。
一般用照明ランプとしての重要特性
一般用照明ランプとして、大きく分けて次の 4 つの特性が重要で、その照明を使用する用途・目的に応じて、それらの照明光源の特性の重みづけをして使い分けられています。
[ 1 ] 色温度(相関色温度)
[ 2 ] 演色性
[ 3 ] ランプの効率
[ 4 ] ランプの寿命
[ 1 ] と [ 2 ] は、人間が見る「色」に対して照明光が影響を及ぼす特性です。
[ 1 ] の色温度(相関色温度)は、(本連載第 34 回でも述べましたように、照明の明るさとの組み合わせで)照明されるその場の心理的雰囲気を大きく左右します。爽やかでスッキリした活動的な雰囲気にしたいのか、心の和むリラックスした雰囲気を望むのか、によって光源の色温度(相関色温度)を使い分けます。
[ 2 ] の演色性は、その照明によって照らされるモノの色がどれだけ自然に(あるいは好ましく)見えるか、ということで、これも生活空間の照明として非常に重要なことです。
[ 3 ] と [ 4 ] は主に経済性に直結する特性項目です。
[ 3 ] のランプの効率は、照明装置に投入する電力( W :ワット)に対してどれだけの「明るさ」すなわち光束( lm :ルーメン)が得られるかを示し、単位は lm / W で表されます。≪※1≫
所定の明るさを得るために、効率が低いほど使用電力量が増えて電気代がかかってしまいますし、またランプ寿命が短いほど頻繁に新品ランプに交換しなければなりませんので、やはり手間がかかり費用が嵩みます。更に近年は、地球環境保全の観点からも [ 3 ] と [ 4 ] は重要視されています。ランプの効率が高いほど同じ「明るさ」を得るためのエネルギー消費は少なくて済みますので、二酸化炭素の排出量抑制に直結します。また、ランプ寿命が短ければ、当然ランプの交換が必要になりますので、ランプの製造エネルギーと廃棄処分エネルギーが嵩んでしまうことになるからです。
私たちの身の回りには様々な種類の人工光源が存在しています。これらの身近な人工光源について、上記の 4 つの重要特性の観点から以下に概略の比較をしてみましょう。
白熱ランプ
スワンやエジソンによって 19 世紀後半に発明・実用化された白熱ランプは、電力による人工白色光源として最も長い歴史を持っています。フィラメントを高温に加熱することによって発光させるもので、連続スペクトルを持った熱放射型光源の代表とも言える光源です。この発光原理(黒体理論)は、本連載の第 33 回「照明光の色味」で紹介しましたドイツの物理学者プランク M. Planck によって確立され、その分光分布は Planck の放射式によって絶対温度の関数として表すことができます。
演色性は極めて高く(モノの色の見え方は極めて自然で) CIE 演色評価法では基準光源に位置付けられます。
ただ、発光メカニズムの関係上、高色温度の発光は難しいこと(実用的にはせいぜい 3000 K 程度まで)、赤外成分が多くて視感効率が低く≪※2≫、また(フィラメントを高温に熱するため)寿命が短いこと、などの欠点があります。近年は地球環境保護(温暖化防止)の点から、ランプ効率が低いことが大きな問題になり、多くのメーカーで生産中止に至っており、急速に使用場面が減少しています。
ハロゲンランプ
蛍光ランプ
現在私たちの日常生活空間で最もお馴染みの光源は蛍光ランプですね。蛍光ランプは、真空中での放電によって発生させた紫外放射で管壁に塗布した蛍光体を励起して可視域の光を放出するようにしたものです。(蛍光を励起する紫外放射は、生体に悪影響を及ぼしますので、ランプ外に漏れないようにカットされています。)
各種の蛍光物質の中から蛍光特性を選択・組み合わせることによって、可視域の分光分布を変えることができ、昼光色から電球色まで様々な光色(相関色温度)が実現されています。≪本連載第 34 回参照≫
蛍光ランプは白熱ランプやハロゲンランプに比較してランプ効率が高く、蛍光ランプが発明された当時は、従来から使用されていた白熱ランプに対して電気代が 3 分の 1 程度で済み、また更に寿命が長いこともあって、急速に普及が進んだと言われています。ただ、当時の蛍光ランプは演色性があまり良くなく(平均演色評価数 Ra が 60 ~ 70 程度)、モノの色があまり自然には見えないという欠点がありました。≪第 35 回の註釈※2参照≫
そこで、演色性改善の努力が重ねられたのですが、演色性を向上すれば電力効率が低下してしまう、逆に電力効率を上げれば演色性が低下してしまう、というジレンマがありました。
この問題を解決したのが、赤、緑、青の波長域に鋭い輝線スペクトルを持つ三波長域発光形蛍光ランプと呼ばれるタイプです。人間の色覚を司る視細胞( 3 種の錐体)の特性とうまくマッチングした波長の輝線スペクトルを選定することによって、ランプ効率を落とすことなく演色性を大きく改善≪※5≫することができ、色の見えの明瞭感も向上しました。
LED ランプ(白色 LED )
(本連載第 31 回にも述べましたように)青色 LED の発明によって白色 LED 照明が実現され、私たちの身の周りの一般照明にも近年急速に普及してきています。しかし、白色 LED が出回り始めた頃は、どうも LED 照明の下では、モノの色が不自然に見えてしまう、という不評が多く、ランプ効率が高く(電気代が安く済み)長寿命であるという特長があるにもかかわらず、特定の用途のみに使用が限定され、一般用の照明としてはそれほど普及しませんでした。≪※6≫
従来主流であった白色 LED は、Blue-YAG型と呼ばれるもので、青色の励起光によって(青の補色である)黄色の蛍光を発生させて、青+黄の加法混色で白を実現するものです。
その分光分布は右図のように、凹凸の激しさが目立つ分光分布になっています。
特に青の励起光(約 440 nm )の突出したピークと、エネルギー分布の少ない波長域(黄色矢印部分・・・・・可視域の短波長端、480 nm 近辺、および長波長側)が目立っており、これが演色性を阻害する要因となっています。
物体の分光反射(透過)率特性によっては、このような分光分布の光によって照明されると、その物体の色が不自然に見えてしまうことが出てくる訳です。
特に赤に対する演色性( 特殊演色評価数 R9 )が悪く、R9 < 0 となる場合もあり、殆ど「赤」が「赤」らしく見えないということになってしまいます。
これに対して、近年の白色 LED は、可視域全般に亘って、蛍光体との組み合わせ技術によって、様々な相関色温度の光源が製作可能で、かつ、基準光源に近似した概ねなだらかな分光分布を持つように改善が進み、演色性が大きく改善されてきています。例えば CCS社製「自然光 LED 」の場合、演色性は非常に良好で、設定された様々な相関色温度において、平均演色評価数 Ra だけでなく、特殊演色評価数 Ri もすべての試験色( i = 1 ~ 15 )に対して 90 以上を達成しています。
LED ランプは、 LED として元々持っている特長(高いランプ効率、長寿命)に加えて、上記のような蛍光技術との組み合わせ・最適化によって、任意の相関色温度および非常に高い演色性を実現できるようになってきましたので、21 世紀の新しい照明光源として脚光を浴びるようになってきたと言えます。
更に LED が本来持っている特長(狭い半値幅の発光スペクトル)から、紫外あるいは赤外の成分を殆ど含まない(不要波長成分をフィルタ等によってカットする必要がない)ランプ効率≪※1≫の高い可視発光光源も製作可能です。また、小型軽量の光源であることを活かして、各色 LED を高密度実装した光源ユニット全体として発光色を可変制御することもできますので、従来光源には無かった新しい用途にも活用範囲が拡大されてきています。
ナトリウムランプ
トンネルの中でよく使われている光源にオレンジ色の光を放つ低圧ナトリウムランプがあります。私たちの日常の生活空間ではまず使用されることのない低圧ナトリウムランプがトンネル内照明に何故使われているのでしょうか?
トンネル内は車の排気ガスが充満しています。つまり多数の微粒子が浮遊しているトンネル内の空気の中を車が走行する訳です。このような状態で問題になるのが光の散乱現象、具体的にはレイリー散乱です。レイリー散乱は、光の波長の 4 乗に反比例して散乱される、すなわち、短波長光になるほど急激に散乱され易くなるというものでした≪※本連載第 21 回参照≫。トンネル内を可視域全般の波長成分を持っている白色光で照明すると、浮遊微粒子によって照明光の短波長成分が多く散乱されてしまい、極端な言い方をすれば煙が充満しているような感じになり、車の前方の見通しが悪くなってしまうことになります。
低圧ナトリウムランプの分光分布は、D 線と呼ばれる波長約 589 nm の輝線スペクトルであり、それ以外の波長成分は殆ど含まれていません(このためにオレンジ色に見える)。この輝線は可視域の中では、長波長寄りに位置していますので散乱されにくいため遠くまで見通しが効き、走行安全性が高いという、トンネル内ならではの重要な長所を持っている訳です。
また、経済的な面でも大きな理由があります。
ランプ効率の高さと長寿命である点です。
トンネルの中ですから、時刻を問わず四六時中照明しなければなりませんから、電気代が高くつくのは問題です。多少モノの色の見え方に問題があっても、トンネル内を通過する間だけ我慢すれば済みますので、経費が圧縮できるのは大きなメリットです。また長寿命であるほど、ランプ交換の頻度が少なくて済みますので、メンテナンス費用(ランプ代と交換手数)が抑えられます。≪※7≫
なお、近年は、クルマの燃焼効率も向上してきて、排気ガス濃度もそれほど高くなることは少なくなってきた為、低圧ナトリウムランプのようなオレンジ色の単光色ではなく、高圧ナトリウムランプや Hf 蛍光ランプと呼ばれる白色の照明も徐々に用いられるようになってきているようです。
注釈
≪※1≫ ランプの効率( lm / W )
一口で「ランプの効率」と言っても、その定義には幾通りかが考えられ、どの定義によっているかに注意しておく必要があります。私たち人間の生活に用いる一般照明用光源は、「目視での明るさ」が評価尺度になります。その「明るさ」を得るために投入消費されるエネルギーの範囲をどこまで考えるかによって「効率」の定義が各種考えられます。
① 視感効率 ηv(luminous efficiency of radiation)
ランプから発せられた(紫外、可視、赤外を含む)全放射束( W )に対する(可視域内の)全光束
( lm )の比率。投入電力や発熱には関係なく、ランプによって電磁波に変換された後の全放射束が評価対象範囲で、その内で「目視の明るさ」に貢献する可視成分の比率(紫外・赤外成分は無駄)を評価するものです。完全な紫外放射源や赤外放射源の場合は放出電磁波のエネルギーがいくら大きくても ηv = 0 ということになります。
② ランプ『単体』としての電力効率 ηP1(luminous efficiency of a lamp unit)
ランプから発せられた全光束( lm )を、(駆動回路は含まず)そのランプのみでの消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱等のエネルギーが多いと効率ηP1が低下することになります。
③ 『総合』電力効率 ηP2(luminous efficiency of a lamp and auxilliary equipment)
ランプから発せられた全光束( lm )を、そのランプおよび駆動回路での総消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱に加えて、駆動回路での消費電力が多いと効率 ηP2 が低下することになります。
同一のランプについて上記の3種の効率を比較すれば、定義式の分子は共通で、考慮対象範囲が広くなるほど分母の値が大きくなりますので、効率値は低くなり、ηv > ηP1 > ηP2 ということになります。
近年、関心が高まっている地球環境保護(地球温暖化防止)の観点から、ランプの「効率」が益々重要視されるようになっていますが、この観点からは、理屈上は③の「総合効率」で評価しなければなりません。しかし現実には、ランプ「単体」としては共通であっても、駆動回路の消費電力はアプリケーション毎に様々な場合があることもあって、なかなか一律的に比較しにくい面もあり、②のランプ「単体」としての電力効率 ηP1 で比較・評価されることが多いようです。
ランプの使用目的が「目視での明るさ」を求めるものでない場合(例えば紫外線硬化剤用ランプなど)は、当然ランプの効率としては別の定義(実効作用関数による効率)を適用する必要があります。
≪※2≫ 白熱ランプ、ハロゲンランプの電力効率
熱放射型光源(白熱ランプやハロゲンランプなど)の分光分布を見れば赤外域に多量のエネルギーが分布しているのがすぐ分かります。すなわち視感効率 ηv が低く、また投入電力の多くが発熱に費やされ、その結果、ランプユニットの電力効率 ηP1 も総合電力効率 ηP2 も高くありません。
≪※3≫ ハロゲンサイクル
白熱ランプでは、高温に加熱されたフィラメントからタングステン原子が蒸発していくため、次第にフィラメントがやせ細るとともに、蒸発したタングステンが管壁に付着して黒化し、ついには断線に至ってしまうことが白熱電球の短寿命の原因です。ランプ内にハロゲンガスを封入することによって、フィラメントから蒸発してくるタングステン原子はハロゲン原子と結合してハロゲン化タングステンとなってランプ内を浮遊し、高温のフィラメントに接近するとタングステン原子とハロゲン原子に分離してタングステン原子が再度フィラメントに戻る、という作用が起こります。この作用を繰り返すことによって、フィラメントがやせ細ることが抑制されるとともに、蒸発したタングステンによる管壁黒化も抑制できることになり、ランプの寿命が向上できるという仕組みがハロゲンサイクルと呼ばれる作用です。
≪※4≫ 反射傘付ハロゲンランプ
(赤外域を透過し可視域を反射する)反射傘や赤外をカットするフィルタを設けることによりランプ効率を向上させたものもあり、可視長波長域では白熱ランプの分光分布と少し異なる特性になっていますが、演色性としては殆ど白熱ランプと同等と見て大きな差異はありません。
≪※5≫ 三波長域発光形蛍光ランプの演色性条件
三波長域発光形蛍光ランプと称するためには、演色性が Ra ≧ 80 を満たすことが条件になっています。(JIS Z 9112:2012)
≪※6≫ LED ランプの初期投資の問題
LED ランプの実用化当初は、従来の光源に対して電気代は安くて済むけれども初期投資がかかるため、初期投資分を回収するまでに年月がかかってしまうという不利な事情もありました。現在もその傾向は幾分続いてはいますが、今後は徐々に解消されていくものと考えられます。
≪※7≫ ナトリウムランプのトンネル内照明メンテナンス
更に、次のような余禄もあるようです。蛾などの昆虫は夜には灯火に寄って来る習性があります。通常の白色照明であればトンネル内でも例外ではありません。蛾などの昆虫の眼の波長感度特性は人間の眼と同じではなく、その可視域は人間の眼よりおおよそ 100 nm 程度短波長側に寄っています。ナトリウムランプの輝線スペクトルの D 線(約 589 nm )は人間の標準分光視感効率 V ( λ ) のピーク( 555 nm )に近く、感度レベルの比較的高い部分に位置していますので、人間にはかなり明るく見える(これがランプ効率の高さにも大きく関係しています)のに対して、昆虫の眼では感度が低い波長域に当たっているため、昆虫には明るく見えず、その結果低圧ナトリウムランプには殆ど寄って来ません。昆虫が寄ってくればそれを狙って蜘蛛が巣を張って待ち構えることになりますが、昆虫が寄ってこなければ蜘蛛も巣を張らない訳で、低圧ナトリウムランプであれば清掃の手間もかからない、というオマケ?のメリットですね。
光と色の話 第一部
第36回 身の周りの照明光源
・・・・・一般照明用ランプとしての重要特性・・・・・
照明光の特性(分光分布)に依存してモノの色の見え方は変化しますので、私たちの生活空間に用いる一般照明光源としては、モノの色が自然に(あるいは好ましく)見えるような光源が望ましい訳です。前回は、モノの色の見え方の良し悪しを評価する方法の内、“色再現の忠実性”というスタンスによる評価方法の代表として、現在世界中で広く使われている CIE 演色評価法を紹介しました。
私たちの生活空間で用いられる光源(一般に白色光源と呼ばれる光源)には、太陽光から人工光源まで様々な種類があります。一口で太陽光と言っても、その特性は季節や時刻により、また天候によっても大きく変動します。また、人工光源についても、ざっと身近なものを挙げてみても、白熱ランプ、蛍光ランプ、水銀ランプ、 LED ランプ、等々がすぐ思いつきます。更に例えば「蛍光ランプ」にも、昼光色や白色など、様々な光色の蛍光ランプが市販されています。
このように多種多様な光源が存在する中で、私たちは日常業務や生活において、その活動の目的・内容に応じて光源の種類を使い分けています。
一般用照明ランプとしての重要特性
一般用照明ランプとして、大きく分けて次の 4 つの特性が重要で、その照明を使用する用途・目的に応じて、それらの照明光源の特性の重みづけをして使い分けられています。
[ 1 ] 色温度(相関色温度)
[ 2 ] 演色性
[ 3 ] ランプの効率
[ 4 ] ランプの寿命
[ 1 ] と [ 2 ] は、人間が見る「色」に対して照明光が影響を及ぼす特性です。
[ 1 ] の色温度(相関色温度)は、(本連載第 34 回でも述べましたように、照明の明るさとの組み合わせで)照明されるその場の心理的雰囲気を大きく左右します。爽やかでスッキリした活動的な雰囲気にしたいのか、心の和むリラックスした雰囲気を望むのか、によって光源の色温度(相関色温度)を使い分けます。
[ 2 ] の演色性は、その照明によって照らされるモノの色がどれだけ自然に(あるいは好ましく)見えるか、ということで、これも生活空間の照明として非常に重要なことです。
[ 3 ] と [ 4 ] は主に経済性に直結する特性項目です。
[ 3 ] のランプの効率は、照明装置に投入する電力( W :ワット)に対してどれだけの「明るさ」すなわち光束( lm :ルーメン)が得られるかを示し、単位は lm / W で表されます。≪※1≫
所定の明るさを得るために、効率が低いほど使用電力量が増えて電気代がかかってしまいますし、またランプ寿命が短いほど頻繁に新品ランプに交換しなければなりませんので、やはり手間がかかり費用が嵩みます。更に近年は、地球環境保全の観点からも [ 3 ] と [ 4 ] は重要視されています。ランプの効率が高いほど同じ「明るさ」を得るためのエネルギー消費は少なくて済みますので、二酸化炭素の排出量抑制に直結します。また、ランプ寿命が短ければ、当然ランプの交換が必要になりますので、ランプの製造エネルギーと廃棄処分エネルギーが嵩んでしまうことになるからです。
私たちの身の回りには様々な種類の人工光源が存在しています。これらの身近な人工光源について、上記の 4 つの重要特性の観点から以下に概略の比較をしてみましょう。
白熱ランプ
スワンやエジソンによって 19 世紀後半に発明・実用化された白熱ランプは、電力による人工白色光源として最も長い歴史を持っています。フィラメントを高温に加熱することによって発光させるもので、連続スペクトルを持った熱放射型光源の代表とも言える光源です。この発光原理(黒体理論)は、本連載の第 33 回「照明光の色味」で紹介しましたドイツの物理学者プランク M. Planck によって確立され、その分光分布は Planck の放射式によって絶対温度の関数として表すことができます。
演色性は極めて高く(モノの色の見え方は極めて自然で) CIE 演色評価法では基準光源に位置付けられます。
ただ、発光メカニズムの関係上、高色温度の発光は難しいこと(実用的にはせいぜい 3000 K 程度まで)、赤外成分が多くて視感効率が低く≪※2≫、また(フィラメントを高温に熱するため)寿命が短いこと、などの欠点があります。近年は地球環境保護(温暖化防止)の点から、ランプ効率が低いことが大きな問題になり、多くのメーカーで生産中止に至っており、急速に使用場面が減少しています。
ハロゲンランプ
蛍光ランプ
現在私たちの日常生活空間で最もお馴染みの光源は蛍光ランプですね。蛍光ランプは、真空中での放電によって発生させた紫外放射で管壁に塗布した蛍光体を励起して可視域の光を放出するようにしたものです。(蛍光を励起する紫外放射は、生体に悪影響を及ぼしますので、ランプ外に漏れないようにカットされています。)
各種の蛍光物質の中から蛍光特性を選択・組み合わせることによって、可視域の分光分布を変えることができ、昼光色から電球色まで様々な光色(相関色温度)が実現されています。≪本連載第 34 回参照≫
蛍光ランプは白熱ランプやハロゲンランプに比較してランプ効率が高く、蛍光ランプが発明された当時は、従来から使用されていた白熱ランプに対して電気代が 3 分の 1 程度で済み、また更に寿命が長いこともあって、急速に普及が進んだと言われています。ただ、当時の蛍光ランプは演色性があまり良くなく(平均演色評価数 Ra が 60 ~ 70 程度)、モノの色があまり自然には見えないという欠点がありました。≪第 35 回の註釈※2参照≫
そこで、演色性改善の努力が重ねられたのですが、演色性を向上すれば電力効率が低下してしまう、逆に電力効率を上げれば演色性が低下してしまう、というジレンマがありました。
この問題を解決したのが、赤、緑、青の波長域に鋭い輝線スペクトルを持つ三波長域発光形蛍光ランプと呼ばれるタイプです。人間の色覚を司る視細胞( 3 種の錐体)の特性とうまくマッチングした波長の輝線スペクトルを選定することによって、ランプ効率を落とすことなく演色性を大きく改善≪※5≫することができ、色の見えの明瞭感も向上しました。
LED ランプ(白色 LED )
(本連載第 31 回にも述べましたように)青色 LED の発明によって白色 LED 照明が実現され、私たちの身の周りの一般照明にも近年急速に普及してきています。しかし、白色 LED が出回り始めた頃は、どうも LED 照明の下では、モノの色が不自然に見えてしまう、という不評が多く、ランプ効率が高く(電気代が安く済み)長寿命であるという特長があるにもかかわらず、特定の用途のみに使用が限定され、一般用の照明としてはそれほど普及しませんでした。≪※6≫
従来主流であった白色 LED は、Blue-YAG型と呼ばれるもので、青色の励起光によって(青の補色である)黄色の蛍光を発生させて、青+黄の加法混色で白を実現するものです。
その分光分布は右図のように、凹凸の激しさが目立つ分光分布になっています。
特に青の励起光(約 440 nm )の突出したピークと、エネルギー分布の少ない波長域(黄色矢印部分・・・・・可視域の短波長端、480 nm 近辺、および長波長側)が目立っており、これが演色性を阻害する要因となっています。
物体の分光反射(透過)率特性によっては、このような分光分布の光によって照明されると、その物体の色が不自然に見えてしまうことが出てくる訳です。
特に赤に対する演色性( 特殊演色評価数 R9 )が悪く、R9 < 0 となる場合もあり、殆ど「赤」が「赤」らしく見えないということになってしまいます。
これに対して、近年の白色 LED は、可視域全般に亘って、蛍光体との組み合わせ技術によって、様々な相関色温度の光源が製作可能で、かつ、基準光源に近似した概ねなだらかな分光分布を持つように改善が進み、演色性が大きく改善されてきています。例えば CCS社製「自然光 LED 」の場合、演色性は非常に良好で、設定された様々な相関色温度において、平均演色評価数 Ra だけでなく、特殊演色評価数 Ri もすべての試験色( i = 1 ~ 15 )に対して 90 以上を達成しています。
LED ランプは、 LED として元々持っている特長(高いランプ効率、長寿命)に加えて、上記のような蛍光技術との組み合わせ・最適化によって、任意の相関色温度および非常に高い演色性を実現できるようになってきましたので、21 世紀の新しい照明光源として脚光を浴びるようになってきたと言えます。
更に LED が本来持っている特長(狭い半値幅の発光スペクトル)から、紫外あるいは赤外の成分を殆ど含まない(不要波長成分をフィルタ等によってカットする必要がない)ランプ効率≪※1≫の高い可視発光光源も製作可能です。また、小型軽量の光源であることを活かして、各色 LED を高密度実装した光源ユニット全体として発光色を可変制御することもできますので、従来光源には無かった新しい用途にも活用範囲が拡大されてきています。
ナトリウムランプ
トンネルの中でよく使われている光源にオレンジ色の光を放つ低圧ナトリウムランプがあります。私たちの日常の生活空間ではまず使用されることのない低圧ナトリウムランプがトンネル内照明に何故使われているのでしょうか?
トンネル内は車の排気ガスが充満しています。つまり多数の微粒子が浮遊しているトンネル内の空気の中を車が走行する訳です。このような状態で問題になるのが光の散乱現象、具体的にはレイリー散乱です。レイリー散乱は、光の波長の 4 乗に反比例して散乱される、すなわち、短波長光になるほど急激に散乱され易くなるというものでした≪※本連載第 21 回参照≫。トンネル内を可視域全般の波長成分を持っている白色光で照明すると、浮遊微粒子によって照明光の短波長成分が多く散乱されてしまい、極端な言い方をすれば煙が充満しているような感じになり、車の前方の見通しが悪くなってしまうことになります。
低圧ナトリウムランプの分光分布は、D 線と呼ばれる波長約 589 nm の輝線スペクトルであり、それ以外の波長成分は殆ど含まれていません(このためにオレンジ色に見える)。この輝線は可視域の中では、長波長寄りに位置していますので散乱されにくいため遠くまで見通しが効き、走行安全性が高いという、トンネル内ならではの重要な長所を持っている訳です。
また、経済的な面でも大きな理由があります。
ランプ効率の高さと長寿命である点です。
トンネルの中ですから、時刻を問わず四六時中照明しなければなりませんから、電気代が高くつくのは問題です。多少モノの色の見え方に問題があっても、トンネル内を通過する間だけ我慢すれば済みますので、経費が圧縮できるのは大きなメリットです。また長寿命であるほど、ランプ交換の頻度が少なくて済みますので、メンテナンス費用(ランプ代と交換手数)が抑えられます。≪※7≫
なお、近年は、クルマの燃焼効率も向上してきて、排気ガス濃度もそれほど高くなることは少なくなってきた為、低圧ナトリウムランプのようなオレンジ色の単光色ではなく、高圧ナトリウムランプや Hf 蛍光ランプと呼ばれる白色の照明も徐々に用いられるようになってきているようです。
注釈
≪※1≫ ランプの効率( lm / W )
一口で「ランプの効率」と言っても、その定義には幾通りかが考えられ、どの定義によっているかに注意しておく必要があります。私たち人間の生活に用いる一般照明用光源は、「目視での明るさ」が評価尺度になります。その「明るさ」を得るために投入消費されるエネルギーの範囲をどこまで考えるかによって「効率」の定義が各種考えられます。
① 視感効率 ηv(luminous efficiency of radiation)
ランプから発せられた(紫外、可視、赤外を含む)全放射束( W )に対する(可視域内の)全光束
( lm )の比率。投入電力や発熱には関係なく、ランプによって電磁波に変換された後の全放射束が評価対象範囲で、その内で「目視の明るさ」に貢献する可視成分の比率(紫外・赤外成分は無駄)を評価するものです。完全な紫外放射源や赤外放射源の場合は放出電磁波のエネルギーがいくら大きくても ηv = 0 ということになります。
② ランプ『単体』としての電力効率 ηP1(luminous efficiency of a lamp unit)
ランプから発せられた全光束( lm )を、(駆動回路は含まず)そのランプのみでの消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱等のエネルギーが多いと効率ηP1が低下することになります。
③ 『総合』電力効率 ηP2(luminous efficiency of a lamp and auxilliary equipment)
ランプから発せられた全光束( lm )を、そのランプおよび駆動回路での総消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱に加えて、駆動回路での消費電力が多いと効率 ηP2 が低下することになります。
同一のランプについて上記の3種の効率を比較すれば、定義式の分子は共通で、考慮対象範囲が広くなるほど分母の値が大きくなりますので、効率値は低くなり、ηv > ηP1 > ηP2 ということになります。
近年、関心が高まっている地球環境保護(地球温暖化防止)の観点から、ランプの「効率」が益々重要視されるようになっていますが、この観点からは、理屈上は③の「総合効率」で評価しなければなりません。しかし現実には、ランプ「単体」としては共通であっても、駆動回路の消費電力はアプリケーション毎に様々な場合があることもあって、なかなか一律的に比較しにくい面もあり、②のランプ「単体」としての電力効率 ηP1 で比較・評価されることが多いようです。
ランプの使用目的が「目視での明るさ」を求めるものでない場合(例えば紫外線硬化剤用ランプなど)は、当然ランプの効率としては別の定義(実効作用関数による効率)を適用する必要があります。
≪※2≫ 白熱ランプ、ハロゲンランプの電力効率
熱放射型光源(白熱ランプやハロゲンランプなど)の分光分布を見れば赤外域に多量のエネルギーが分布しているのがすぐ分かります。すなわち視感効率 ηv が低く、また投入電力の多くが発熱に費やされ、その結果、ランプユニットの電力効率 ηP1 も総合電力効率 ηP2 も高くありません。
≪※3≫ ハロゲンサイクル
白熱ランプでは、高温に加熱されたフィラメントからタングステン原子が蒸発していくため、次第にフィラメントがやせ細るとともに、蒸発したタングステンが管壁に付着して黒化し、ついには断線に至ってしまうことが白熱電球の短寿命の原因です。ランプ内にハロゲンガスを封入することによって、フィラメントから蒸発してくるタングステン原子はハロゲン原子と結合してハロゲン化タングステンとなってランプ内を浮遊し、高温のフィラメントに接近するとタングステン原子とハロゲン原子に分離してタングステン原子が再度フィラメントに戻る、という作用が起こります。この作用を繰り返すことによって、フィラメントがやせ細ることが抑制されるとともに、蒸発したタングステンによる管壁黒化も抑制できることになり、ランプの寿命が向上できるという仕組みがハロゲンサイクルと呼ばれる作用です。
≪※4≫ 反射傘付ハロゲンランプ
(赤外域を透過し可視域を反射する)反射傘や赤外をカットするフィルタを設けることによりランプ効率を向上させたものもあり、可視長波長域では白熱ランプの分光分布と少し異なる特性になっていますが、演色性としては殆ど白熱ランプと同等と見て大きな差異はありません。
≪※5≫ 三波長域発光形蛍光ランプの演色性条件
三波長域発光形蛍光ランプと称するためには、演色性が Ra ≧ 80 を満たすことが条件になっています。(JIS Z 9112:2012)
≪※6≫ LED ランプの初期投資の問題
LED ランプの実用化当初は、従来の光源に対して電気代は安くて済むけれども初期投資がかかるため、初期投資分を回収するまでに年月がかかってしまうという不利な事情もありました。現在もその傾向は幾分続いてはいますが、今後は徐々に解消されていくものと考えられます。
≪※7≫ ナトリウムランプのトンネル内照明メンテナンス
更に、次のような余禄もあるようです。蛾などの昆虫は夜には灯火に寄って来る習性があります。通常の白色照明であればトンネル内でも例外ではありません。蛾などの昆虫の眼の波長感度特性は人間の眼と同じではなく、その可視域は人間の眼よりおおよそ 100 nm 程度短波長側に寄っています。ナトリウムランプの輝線スペクトルの D 線(約 589 nm )は人間の標準分光視感効率 V ( λ ) のピーク( 555 nm )に近く、感度レベルの比較的高い部分に位置していますので、人間にはかなり明るく見える(これがランプ効率の高さにも大きく関係しています)のに対して、昆虫の眼では感度が低い波長域に当たっているため、昆虫には明るく見えず、その結果低圧ナトリウムランプには殆ど寄って来ません。昆虫が寄ってくればそれを狙って蜘蛛が巣を張って待ち構えることになりますが、昆虫が寄ってこなければ蜘蛛も巣を張らない訳で、低圧ナトリウムランプであれば清掃の手間もかからない、というオマケ?のメリットですね。
光と色の話 第一部
第36回 身の周りの照明光源
・・・・・一般照明用ランプとしての重要特性・・・・・
照明光の特性(分光分布)に依存してモノの色の見え方は変化しますので、私たちの生活空間に用いる一般照明光源としては、モノの色が自然に(あるいは好ましく)見えるような光源が望ましい訳です。前回は、モノの色の見え方の良し悪しを評価する方法の内、“色再現の忠実性”というスタンスによる評価方法の代表として、現在世界中で広く使われている CIE 演色評価法を紹介しました。
私たちの生活空間で用いられる光源(一般に白色光源と呼ばれる光源)には、太陽光から人工光源まで様々な種類があります。一口で太陽光と言っても、その特性は季節や時刻により、また天候によっても大きく変動します。また、人工光源についても、ざっと身近なものを挙げてみても、白熱ランプ、蛍光ランプ、水銀ランプ、 LED ランプ、等々がすぐ思いつきます。更に例えば「蛍光ランプ」にも、昼光色や白色など、様々な光色の蛍光ランプが市販されています。
このように多種多様な光源が存在する中で、私たちは日常業務や生活において、その活動の目的・内容に応じて光源の種類を使い分けています。
一般用照明ランプとしての重要特性
一般用照明ランプとして、大きく分けて次の 4 つの特性が重要で、その照明を使用する用途・目的に応じて、それらの照明光源の特性の重みづけをして使い分けられています。
[ 1 ] 色温度(相関色温度)
[ 2 ] 演色性
[ 3 ] ランプの効率
[ 4 ] ランプの寿命
[ 1 ] と [ 2 ] は、人間が見る「色」に対して照明光が影響を及ぼす特性です。
[ 1 ] の色温度(相関色温度)は、(本連載第 34 回でも述べましたように、照明の明るさとの組み合わせで)照明されるその場の心理的雰囲気を大きく左右します。爽やかでスッキリした活動的な雰囲気にしたいのか、心の和むリラックスした雰囲気を望むのか、によって光源の色温度(相関色温度)を使い分けます。
[ 2 ] の演色性は、その照明によって照らされるモノの色がどれだけ自然に(あるいは好ましく)見えるか、ということで、これも生活空間の照明として非常に重要なことです。
[ 3 ] と [ 4 ] は主に経済性に直結する特性項目です。
[ 3 ] のランプの効率は、照明装置に投入する電力( W :ワット)に対してどれだけの「明るさ」すなわち光束( lm :ルーメン)が得られるかを示し、単位は lm / W で表されます。≪※1≫
所定の明るさを得るために、効率が低いほど使用電力量が増えて電気代がかかってしまいますし、またランプ寿命が短いほど頻繁に新品ランプに交換しなければなりませんので、やはり手間がかかり費用が嵩みます。更に近年は、地球環境保全の観点からも [ 3 ] と [ 4 ] は重要視されています。ランプの効率が高いほど同じ「明るさ」を得るためのエネルギー消費は少なくて済みますので、二酸化炭素の排出量抑制に直結します。また、ランプ寿命が短ければ、当然ランプの交換が必要になりますので、ランプの製造エネルギーと廃棄処分エネルギーが嵩んでしまうことになるからです。
私たちの身の回りには様々な種類の人工光源が存在しています。これらの身近な人工光源について、上記の 4 つの重要特性の観点から以下に概略の比較をしてみましょう。
白熱ランプ
スワンやエジソンによって 19 世紀後半に発明・実用化された白熱ランプは、電力による人工白色光源として最も長い歴史を持っています。フィラメントを高温に加熱することによって発光させるもので、連続スペクトルを持った熱放射型光源の代表とも言える光源です。この発光原理(黒体理論)は、本連載の第 33 回「照明光の色味」で紹介しましたドイツの物理学者プランク M. Planck によって確立され、その分光分布は Planck の放射式によって絶対温度の関数として表すことができます。
演色性は極めて高く(モノの色の見え方は極めて自然で) CIE 演色評価法では基準光源に位置付けられます。
ただ、発光メカニズムの関係上、高色温度の発光は難しいこと(実用的にはせいぜい 3000 K 程度まで)、赤外成分が多くて視感効率が低く≪※2≫、また(フィラメントを高温に熱するため)寿命が短いこと、などの欠点があります。近年は地球環境保護(温暖化防止)の点から、ランプ効率が低いことが大きな問題になり、多くのメーカーで生産中止に至っており、急速に使用場面が減少しています。
ハロゲンランプ
蛍光ランプ
現在私たちの日常生活空間で最もお馴染みの光源は蛍光ランプですね。蛍光ランプは、真空中での放電によって発生させた紫外放射で管壁に塗布した蛍光体を励起して可視域の光を放出するようにしたものです。(蛍光を励起する紫外放射は、生体に悪影響を及ぼしますので、ランプ外に漏れないようにカットされています。)
各種の蛍光物質の中から蛍光特性を選択・組み合わせることによって、可視域の分光分布を変えることができ、昼光色から電球色まで様々な光色(相関色温度)が実現されています。≪本連載第 34 回参照≫
蛍光ランプは白熱ランプやハロゲンランプに比較してランプ効率が高く、蛍光ランプが発明された当時は、従来から使用されていた白熱ランプに対して電気代が 3 分の 1 程度で済み、また更に寿命が長いこともあって、急速に普及が進んだと言われています。ただ、当時の蛍光ランプは演色性があまり良くなく(平均演色評価数 Ra が 60 ~ 70 程度)、モノの色があまり自然には見えないという欠点がありました。≪第 35 回の註釈※2参照≫
そこで、演色性改善の努力が重ねられたのですが、演色性を向上すれば電力効率が低下してしまう、逆に電力効率を上げれば演色性が低下してしまう、というジレンマがありました。
この問題を解決したのが、赤、緑、青の波長域に鋭い輝線スペクトルを持つ三波長域発光形蛍光ランプと呼ばれるタイプです。人間の色覚を司る視細胞( 3 種の錐体)の特性とうまくマッチングした波長の輝線スペクトルを選定することによって、ランプ効率を落とすことなく演色性を大きく改善≪※5≫することができ、色の見えの明瞭感も向上しました。
LED ランプ(白色 LED )
(本連載第 31 回にも述べましたように)青色 LED の発明によって白色 LED 照明が実現され、私たちの身の周りの一般照明にも近年急速に普及してきています。しかし、白色 LED が出回り始めた頃は、どうも LED 照明の下では、モノの色が不自然に見えてしまう、という不評が多く、ランプ効率が高く(電気代が安く済み)長寿命であるという特長があるにもかかわらず、特定の用途のみに使用が限定され、一般用の照明としてはそれほど普及しませんでした。≪※6≫
従来主流であった白色 LED は、Blue-YAG型と呼ばれるもので、青色の励起光によって(青の補色である)黄色の蛍光を発生させて、青+黄の加法混色で白を実現するものです。
その分光分布は右図のように、凹凸の激しさが目立つ分光分布になっています。
特に青の励起光(約 440 nm )の突出したピークと、エネルギー分布の少ない波長域(黄色矢印部分・・・・・可視域の短波長端、480 nm 近辺、および長波長側)が目立っており、これが演色性を阻害する要因となっています。
物体の分光反射(透過)率特性によっては、このような分光分布の光によって照明されると、その物体の色が不自然に見えてしまうことが出てくる訳です。
特に赤に対する演色性( 特殊演色評価数 R9 )が悪く、R9 < 0 となる場合もあり、殆ど「赤」が「赤」らしく見えないということになってしまいます。
これに対して、近年の白色 LED は、可視域全般に亘って、蛍光体との組み合わせ技術によって、様々な相関色温度の光源が製作可能で、かつ、基準光源に近似した概ねなだらかな分光分布を持つように改善が進み、演色性が大きく改善されてきています。例えば CCS社製「自然光 LED 」の場合、演色性は非常に良好で、設定された様々な相関色温度において、平均演色評価数 Ra だけでなく、特殊演色評価数 Ri もすべての試験色( i = 1 ~ 15 )に対して 90 以上を達成しています。
LED ランプは、 LED として元々持っている特長(高いランプ効率、長寿命)に加えて、上記のような蛍光技術との組み合わせ・最適化によって、任意の相関色温度および非常に高い演色性を実現できるようになってきましたので、21 世紀の新しい照明光源として脚光を浴びるようになってきたと言えます。
更に LED が本来持っている特長(狭い半値幅の発光スペクトル)から、紫外あるいは赤外の成分を殆ど含まない(不要波長成分をフィルタ等によってカットする必要がない)ランプ効率≪※1≫の高い可視発光光源も製作可能です。また、小型軽量の光源であることを活かして、各色 LED を高密度実装した光源ユニット全体として発光色を可変制御することもできますので、従来光源には無かった新しい用途にも活用範囲が拡大されてきています。
ナトリウムランプ
トンネルの中でよく使われている光源にオレンジ色の光を放つ低圧ナトリウムランプがあります。私たちの日常の生活空間ではまず使用されることのない低圧ナトリウムランプがトンネル内照明に何故使われているのでしょうか?
トンネル内は車の排気ガスが充満しています。つまり多数の微粒子が浮遊しているトンネル内の空気の中を車が走行する訳です。このような状態で問題になるのが光の散乱現象、具体的にはレイリー散乱です。レイリー散乱は、光の波長の 4 乗に反比例して散乱される、すなわち、短波長光になるほど急激に散乱され易くなるというものでした≪※本連載第 21 回参照≫。トンネル内を可視域全般の波長成分を持っている白色光で照明すると、浮遊微粒子によって照明光の短波長成分が多く散乱されてしまい、極端な言い方をすれば煙が充満しているような感じになり、車の前方の見通しが悪くなってしまうことになります。
低圧ナトリウムランプの分光分布は、D 線と呼ばれる波長約 589 nm の輝線スペクトルであり、それ以外の波長成分は殆ど含まれていません(このためにオレンジ色に見える)。この輝線は可視域の中では、長波長寄りに位置していますので散乱されにくいため遠くまで見通しが効き、走行安全性が高いという、トンネル内ならではの重要な長所を持っている訳です。
また、経済的な面でも大きな理由があります。
ランプ効率の高さと長寿命である点です。
トンネルの中ですから、時刻を問わず四六時中照明しなければなりませんから、電気代が高くつくのは問題です。多少モノの色の見え方に問題があっても、トンネル内を通過する間だけ我慢すれば済みますので、経費が圧縮できるのは大きなメリットです。また長寿命であるほど、ランプ交換の頻度が少なくて済みますので、メンテナンス費用(ランプ代と交換手数)が抑えられます。≪※7≫
なお、近年は、クルマの燃焼効率も向上してきて、排気ガス濃度もそれほど高くなることは少なくなってきた為、低圧ナトリウムランプのようなオレンジ色の単光色ではなく、高圧ナトリウムランプや Hf 蛍光ランプと呼ばれる白色の照明も徐々に用いられるようになってきているようです。
注釈
≪※1≫ ランプの効率( lm / W )
一口で「ランプの効率」と言っても、その定義には幾通りかが考えられ、どの定義によっているかに注意しておく必要があります。私たち人間の生活に用いる一般照明用光源は、「目視での明るさ」が評価尺度になります。その「明るさ」を得るために投入消費されるエネルギーの範囲をどこまで考えるかによって「効率」の定義が各種考えられます。
① 視感効率 ηv(luminous efficiency of radiation)
ランプから発せられた(紫外、可視、赤外を含む)全放射束( W )に対する(可視域内の)全光束
( lm )の比率。投入電力や発熱には関係なく、ランプによって電磁波に変換された後の全放射束が評価対象範囲で、その内で「目視の明るさ」に貢献する可視成分の比率(紫外・赤外成分は無駄)を評価するものです。完全な紫外放射源や赤外放射源の場合は放出電磁波のエネルギーがいくら大きくても ηv = 0 ということになります。
② ランプ『単体』としての電力効率 ηP1(luminous efficiency of a lamp unit)
ランプから発せられた全光束( lm )を、(駆動回路は含まず)そのランプのみでの消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱等のエネルギーが多いと効率ηP1が低下することになります。
③ 『総合』電力効率 ηP2(luminous efficiency of a lamp and auxilliary equipment)
ランプから発せられた全光束( lm )を、そのランプおよび駆動回路での総消費電力( W )で除した値。
ランプの発熱に加えて、駆動回路での消費電力が多いと効率 ηP2 が低下することになります。
同一のランプについて上記の3種の効率を比較すれば、定義式の分子は共通で、考慮対象範囲が広くなるほど分母の値が大きくなりますので、効率値は低くなり、ηv > ηP1 > ηP2 ということになります。
近年、関心が高まっている地球環境保護(地球温暖化防止)の観点から、ランプの「効率」が益々重要視されるようになっていますが、この観点からは、理屈上は③の「総合効率」で評価しなければなりません。しかし現実には、ランプ「単体」としては共通であっても、駆動回路の消費電力はアプリケーション毎に様々な場合があることもあって、なかなか一律的に比較しにくい面もあり、②のランプ「単体」としての電力効率 ηP1 で比較・評価されることが多いようです。
ランプの使用目的が「目視での明るさ」を求めるものでない場合(例えば紫外線硬化剤用ランプなど)は、当然ランプの効率としては別の定義(実効作用関数による効率)を適用する必要があります。
≪※2≫ 白熱ランプ、ハロゲンランプの電力効率
熱放射型光源(白熱ランプやハロゲンランプなど)の分光分布を見れば赤外域に多量のエネルギーが分布しているのがすぐ分かります。すなわち視感効率 ηv が低く、また投入電力の多くが発熱に費やされ、その結果、ランプユニットの電力効率 ηP1 も総合電力効率 ηP2 も高くありません。
≪※3≫ ハロゲンサイクル
白熱ランプでは、高温に加熱されたフィラメントからタングステン原子が蒸発していくため、次第にフィラメントがやせ細るとともに、蒸発したタングステンが管壁に付着して黒化し、ついには断線に至ってしまうことが白熱電球の短寿命の原因です。ランプ内にハロゲンガスを封入することによって、フィラメントから蒸発してくるタングステン原子はハロゲン原子と結合してハロゲン化タングステンとなってランプ内を浮遊し、高温のフィラメントに接近するとタングステン原子とハロゲン原子に分離してタングステン原子が再度フィラメントに戻る、という作用が起こります。この作用を繰り返すことによって、フィラメントがやせ細ることが抑制されるとともに、蒸発したタングステンによる管壁黒化も抑制できることになり、ランプの寿命が向上できるという仕組みがハロゲンサイクルと呼ばれる作用です。
≪※4≫ 反射傘付ハロゲンランプ
(赤外域を透過し可視域を反射する)反射傘や赤外をカットするフィルタを設けることによりランプ効率を向上させたものもあり、可視長波長域では白熱ランプの分光分布と少し異なる特性になっていますが、演色性としては殆ど白熱ランプと同等と見て大きな差異はありません。
≪※5≫ 三波長域発光形蛍光ランプの演色性条件
三波長域発光形蛍光ランプと称するためには、演色性が Ra ≧ 80 を満たすことが条件になっています。(JIS Z 9112:2012)
≪※6≫ LED ランプの初期投資の問題
LED ランプの実用化当初は、従来の光源に対して電気代は安くて済むけれども初期投資がかかるため、初期投資分を回収するまでに年月がかかってしまうという不利な事情もありました。現在もその傾向は幾分続いてはいますが、今後は徐々に解消されていくものと考えられます。
≪※7≫ ナトリウムランプのトンネル内照明メンテナンス
更に、次のような余禄もあるようです。蛾などの昆虫は夜には灯火に寄って来る習性があります。通常の白色照明であればトンネル内でも例外ではありません。蛾などの昆虫の眼の波長感度特性は人間の眼と同じではなく、その可視域は人間の眼よりおおよそ 100 nm 程度短波長側に寄っています。ナトリウムランプの輝線スペクトルの D 線(約 589 nm )は人間の標準分光視感効率 V ( λ ) のピーク( 555 nm )に近く、感度レベルの比較的高い部分に位置していますので、人間にはかなり明るく見える(これがランプ効率の高さにも大きく関係しています)のに対して、昆虫の眼では感度が低い波長域に当たっているため、昆虫には明るく見えず、その結果低圧ナトリウムランプには殆ど寄って来ません。昆虫が寄ってくればそれを狙って蜘蛛が巣を張って待ち構えることになりますが、昆虫が寄ってこなければ蜘蛛も巣を張らない訳で、低圧ナトリウムランプであれば清掃の手間もかからない、というオマケ?のメリットですね。