光と色の話 第一部
第12回『色』って何だろう?・・・(その2)
・・・・・ モノ自体に「色」がついているのではない ・・・・・
「光源色」と「物体色」
前回は、「色」が存在するためには、「光」と「視覚」の二つの要素が最低限必要な条件であることをお話しました。
私たちは一言で「色」と言いますが、「色」は大きく分けると、光源そのものが発する色(光源色)と、光源からの光を受けた物体が示す色(物体色)があります。物体色は更に、その物体表面での反射によって発する色(表面色、または反射物体色)と、半透明物体を透過した光によって生ずる色(透過色、または透過物体色)に分けられます。
光源色は、光源からの光が直接眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
また、物体色は、光源からの光が物体に当って、その物体特有の波長毎の反射(透過)特性の影響を受けた光が眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
つまり、私たちが普段見ている「色」の内、「光」と「視覚」の二つの条件だけで成り立つのは光源の色の場合(図【 a 】)です。
光源の種類によって色が異なることはよく経験します。
ロウソクの色はかなり赤っぽい色ですが、公園の夜間照明などによく使われる水銀ランプの色は青白く、またトンネル照明などによく使われるナトリウムランプはオレンジ色をしています。これらの光源は皆、波長毎のエネルギーの強さ(分光分布)が異なりますので、眼の視細胞(錐体)への刺激の仕方が異なるため色が違って見えることになります。
各種「白色光源」の分光分布例・・・・一言で「白色光源」と言ってもかなり色味が異なります。
しかし私たちが実際に見る色の殆どは物体の色です。同じ照明光の下でも物体の種類によって見える色が異なるのは、その物体自体の持つ特性が最終的な「色」を決める大きな要素として機能しているからです。図【 b 】のように、「光」、「視覚」および「物体」の三つの要素が重なる領域で最終的な物体の色が決まる訳ですね。
「光源」・「視覚(眼と脳)」・「物体」を“物体色の三要素”と呼んでいます。
イチゴとレモンの色は何故違う?
物体色の場合、例えば同じ太陽の下で、イチゴとレモンは異なった色に見えます。
光源からの光が物体に当って反射される時、物体の表面で、或る波長の光は反射し、或る波長の光は吸収されます。この特性(分光反射率特性 ≪※1≫ )が物体の種類によって異なりますので同じ照明光の下でもモノによって色が違って見えることになります。
イチゴとレモンの分光反射率特性を比較すると、大雑把に言って、可視域の長波長光(赤く見える光)が多く反射され、短波長光(青く見える光)が殆ど吸収されているのは概ね共通していますが、中波長光(緑に見える光)の特性が大きく異なります。中波長光は、イチゴでは殆ど吸収されるのに対してレモンではかなり反射されてしまいます。この違いが、イチゴ(赤)とレモン(黄)の色の違いとなって認識される訳です。
イチゴの場合は長波長光を多く反射し短波長光や中波長光は殆ど吸収してしまいます。従って、私達の身の周りに有る普通の白色光源(太陽光や蛍光灯など)の下では、眼に入射する光は長波長光の成分が強い光となり、L 錐体が強い刺激を受け、S および M 錐体はあまり刺激を受けません。その結果イチゴの実は「赤い」と認識されます。
それに対してレモンは長波長光だけでなく中波長光もかなり多く反射します。(短波長光はイチゴと同様、殆ど吸収されてしまいます。)従って、レモンの場合は、L 錐体が最も強い刺激を受け、次いで M 錐体もかなりの強い刺激を受けます( S 錐体は殆ど刺激を受けません)。その結果、脳はレモンを赤と緑が加法混色された「黄」と判断することになります。
結局、モノの色というのは、光源の特性(分光分布)と物体の特性(分光反射率または分光透過率)と眼(視細胞)の特性の組合せによって決まるということになります。
モノ自体に「色」がついているのではない
物体色の三要素の内、どれが変化しても物体の「色」は変化することになります。「光源」と「視覚」は「色」が成り立つための必須条件であり、「物体」は「光源」からの色・・・・・といっても、眼に入射する前の段階ではまだ「色」は成立していませんが・・・・・を途中で変化させる、まさに「脚色」する働きをしている、ということができますね。上述のイチゴとレモンの色の違いの説明だけでは、まだモノ自体に色がついている、という先入観念から抜けきれない人もいるかもしれません。
上述の例では照明光源は太陽光のような可視域にエネルギー成分が全体的に分布している「白色光」で照明した場合です。
照明する光が白色光(例えば太陽光)ではなく、例えば「単色光」であった場合はどうでしょうか?
赤色 LED で照明すると・・・
イチゴだけではなくレモンも鮮やかな赤い色に見えます。その理由は、イチゴもレモンも長波長域では反射率が高く、多くの光(長波長光)が反射されて眼に入って来るからです。短波長、中波長域については、照明する赤色 LED 自身にそれらの成分が含まれていません。従って、反射率が高くても低くても反射する光は無いので全く関係ありません。
青色 LED で照明すると・・・
イチゴもレモンもどちらも非常に暗い青(青みがかった黒)に見えます。その理由は、イチゴもレモンも短波長域(青く見える光)の反射率は非常に低いので、殆どが吸収されてしまい、ほんの僅かの光が反射されるだけだからです。青色 LED には短波長域の光しか含まれていませんので、中波長・長波長域の反射率は高くても低くても全く関係ありません。
緑色 LED で照明すると・・・
レモンは明るい緑色に見えますが、イチゴは非常に暗い緑(緑がかった黒)に見えます。レモンの中波長域の反射率はかなり高く、多くの中波長光が反射されて眼に入ってきます。それに対してイチゴは中波長域の光は殆ど吸収されてしまい、ほんの僅か反射されるだけです。(緑色 LED には中波長域の光しか含まれていませんので、短波長・長波長域の反射率は関係ありません。)
つまり、赤色 LED や青色 LED で照明すれば、イチゴとレモンの色の差異は殆ど無くなってしまい、中波長域のみにエネルギーをもつ緑色 LED で照明すると、反射率特性が異なるイチゴとレモンの色は大きく異なってしまいます。
上記の例は、解り易いように照明光源として極端な場合について述べましたが、私達の日常体験では、例えば、デパートで気に入って買って帰った服の色が、自宅で見ると、あるいは日中戸外で見ると、デパートで見たときの色と少し違って見えた、という経験をした人も多いと思います。これは、品物(服)と観察者は同じであるのに対し、照明光源がデパートの売り場と自宅あるいは戸外の光(太陽光)とで異なっていた(光源の分光分布が異なっていた)ために色が違って見えたということです。
これから分かりますように、決してモノ自体に「色」がついている訳ではないことが理解していただけるのではないかと思います。
注釈
≪※1≫ 「反射率」という用語について
「反射率」の厳密な定義は、
“物体に入射した放射束又は光束に対する、反射した放射束又は光束の比”( JIS Z 8113 :1998 )です。つまり、入射光束は反射面によって様々な方向に拡散反射されますが、それら全ての反射光束をひっくるめたものが「反射率」の評価対象になります。
一方、我々が物体を見る場合は、反射面から眼の方向に反射する光束だけを見ていることになります。従って、この場合、厳密には「反射率」という用語を使用するのは不適切で、専門的になりますが、「輝度率」という用語を使用すべきところです。しかし、「輝度率」という用語は一般にはなかなか分かりにくいため、ここでは日常会話的で直感的に分かり易い「反射率」という用語を敢えて使用しました。
なお、「輝度率」の定義は
“同じ光(放射)の照射を受けたとき、自ら発光していない(放射を発していない)面の(放射)輝度と、完全拡散反射体の(放射)輝度との比”( JIS Z 8113 :1998 )です。すなわち、「輝度」という概念が入りますので、観察方向が指定され、その方向に反射する光束だけが評価の対象になる訳です。
光と色の話 第一部
第12回『色』って何だろう?・・・(その2)
・・・・・ モノ自体に「色」がついているのではない ・・・・・
「光源色」と「物体色」
前回は、「色」が存在するためには、「光」と「視覚」の二つの要素が最低限必要な条件であることをお話しました。
私たちは一言で「色」と言いますが、「色」は大きく分けると、光源そのものが発する色(光源色)と、光源からの光を受けた物体が示す色(物体色)があります。物体色は更に、その物体表面での反射によって発する色(表面色、または反射物体色)と、半透明物体を透過した光によって生ずる色(透過色、または透過物体色)に分けられます。
光源色は、光源からの光が直接眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
また、物体色は、光源からの光が物体に当って、その物体特有の波長毎の反射(透過)特性の影響を受けた光が眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
つまり、私たちが普段見ている「色」の内、「光」と「視覚」の二つの条件だけで成り立つのは光源の色の場合(図【 a 】)です。
光源の種類によって色が異なることはよく経験します。
ロウソクの色はかなり赤っぽい色ですが、公園の夜間照明などによく使われる水銀ランプの色は青白く、またトンネル照明などによく使われるナトリウムランプはオレンジ色をしています。これらの光源は皆、波長毎のエネルギーの強さ(分光分布)が異なりますので、眼の視細胞(錐体)への刺激の仕方が異なるため色が違って見えることになります。
各種「白色光源」の分光分布例・・・・一言で「白色光源」と言ってもかなり色味が異なります。
しかし私たちが実際に見る色の殆どは物体の色です。同じ照明光の下でも物体の種類によって見える色が異なるのは、その物体自体の持つ特性が最終的な「色」を決める大きな要素として機能しているからです。図【 b 】のように、「光」、「視覚」および「物体」の三つの要素が重なる領域で最終的な物体の色が決まる訳ですね。
「光源」・「視覚(眼と脳)」・「物体」を“物体色の三要素”と呼んでいます。
イチゴとレモンの色は何故違う?
物体色の場合、例えば同じ太陽の下で、イチゴとレモンは異なった色に見えます。
光源からの光が物体に当って反射される時、物体の表面で、或る波長の光は反射し、或る波長の光は吸収されます。この特性(分光反射率特性 ≪※1≫ )が物体の種類によって異なりますので同じ照明光の下でもモノによって色が違って見えることになります。
イチゴとレモンの分光反射率特性を比較すると、大雑把に言って、可視域の長波長光(赤く見える光)が多く反射され、短波長光(青く見える光)が殆ど吸収されているのは概ね共通していますが、中波長光(緑に見える光)の特性が大きく異なります。中波長光は、イチゴでは殆ど吸収されるのに対してレモンではかなり反射されてしまいます。この違いが、イチゴ(赤)とレモン(黄)の色の違いとなって認識される訳です。
イチゴの場合は長波長光を多く反射し短波長光や中波長光は殆ど吸収してしまいます。従って、私達の身の周りに有る普通の白色光源(太陽光や蛍光灯など)の下では、眼に入射する光は長波長光の成分が強い光となり、L 錐体が強い刺激を受け、S および M 錐体はあまり刺激を受けません。その結果イチゴの実は「赤い」と認識されます。
それに対してレモンは長波長光だけでなく中波長光もかなり多く反射します。(短波長光はイチゴと同様、殆ど吸収されてしまいます。)従って、レモンの場合は、L 錐体が最も強い刺激を受け、次いで M 錐体もかなりの強い刺激を受けます( S 錐体は殆ど刺激を受けません)。その結果、脳はレモンを赤と緑が加法混色された「黄」と判断することになります。
結局、モノの色というのは、光源の特性(分光分布)と物体の特性(分光反射率または分光透過率)と眼(視細胞)の特性の組合せによって決まるということになります。
モノ自体に「色」がついているのではない
物体色の三要素の内、どれが変化しても物体の「色」は変化することになります。「光源」と「視覚」は「色」が成り立つための必須条件であり、「物体」は「光源」からの色・・・・・といっても、眼に入射する前の段階ではまだ「色」は成立していませんが・・・・・を途中で変化させる、まさに「脚色」する働きをしている、ということができますね。上述のイチゴとレモンの色の違いの説明だけでは、まだモノ自体に色がついている、という先入観念から抜けきれない人もいるかもしれません。
上述の例では照明光源は太陽光のような可視域にエネルギー成分が全体的に分布している「白色光」で照明した場合です。
照明する光が白色光(例えば太陽光)ではなく、例えば「単色光」であった場合はどうでしょうか?
赤色 LED で照明すると・・・
イチゴだけではなくレモンも鮮やかな赤い色に見えます。その理由は、イチゴもレモンも長波長域では反射率が高く、多くの光(長波長光)が反射されて眼に入って来るからです。短波長、中波長域については、照明する赤色 LED 自身にそれらの成分が含まれていません。従って、反射率が高くても低くても反射する光は無いので全く関係ありません。
青色 LED で照明すると・・・
イチゴもレモンもどちらも非常に暗い青(青みがかった黒)に見えます。その理由は、イチゴもレモンも短波長域(青く見える光)の反射率は非常に低いので、殆どが吸収されてしまい、ほんの僅かの光が反射されるだけだからです。青色 LED には短波長域の光しか含まれていませんので、中波長・長波長域の反射率は高くても低くても全く関係ありません。
緑色 LED で照明すると・・・
レモンは明るい緑色に見えますが、イチゴは非常に暗い緑(緑がかった黒)に見えます。レモンの中波長域の反射率はかなり高く、多くの中波長光が反射されて眼に入ってきます。それに対してイチゴは中波長域の光は殆ど吸収されてしまい、ほんの僅か反射されるだけです。(緑色 LED には中波長域の光しか含まれていませんので、短波長・長波長域の反射率は関係ありません。)
つまり、赤色 LED や青色 LED で照明すれば、イチゴとレモンの色の差異は殆ど無くなってしまい、中波長域のみにエネルギーをもつ緑色 LED で照明すると、反射率特性が異なるイチゴとレモンの色は大きく異なってしまいます。
上記の例は、解り易いように照明光源として極端な場合について述べましたが、私達の日常体験では、例えば、デパートで気に入って買って帰った服の色が、自宅で見ると、あるいは日中戸外で見ると、デパートで見たときの色と少し違って見えた、という経験をした人も多いと思います。これは、品物(服)と観察者は同じであるのに対し、照明光源がデパートの売り場と自宅あるいは戸外の光(太陽光)とで異なっていた(光源の分光分布が異なっていた)ために色が違って見えたということです。
これから分かりますように、決してモノ自体に「色」がついている訳ではないことが理解していただけるのではないかと思います。
注釈
≪※1≫ 「反射率」という用語について
「反射率」の厳密な定義は、
“物体に入射した放射束又は光束に対する、反射した放射束又は光束の比”( JIS Z 8113 :1998 )です。つまり、入射光束は反射面によって様々な方向に拡散反射されますが、それら全ての反射光束をひっくるめたものが「反射率」の評価対象になります。
一方、我々が物体を見る場合は、反射面から眼の方向に反射する光束だけを見ていることになります。従って、この場合、厳密には「反射率」という用語を使用するのは不適切で、専門的になりますが、「輝度率」という用語を使用すべきところです。しかし、「輝度率」という用語は一般にはなかなか分かりにくいため、ここでは日常会話的で直感的に分かり易い「反射率」という用語を敢えて使用しました。
なお、「輝度率」の定義は
“同じ光(放射)の照射を受けたとき、自ら発光していない(放射を発していない)面の(放射)輝度と、完全拡散反射体の(放射)輝度との比”( JIS Z 8113 :1998 )です。すなわち、「輝度」という概念が入りますので、観察方向が指定され、その方向に反射する光束だけが評価の対象になる訳です。
光と色の話 第一部
第12回『色』って何だろう?・・・(その2)
・・・・・ モノ自体に「色」がついているのではない ・・・・・
「光源色」と「物体色」
前回は、「色」が存在するためには、「光」と「視覚」の二つの要素が最低限必要な条件であることをお話しました。
私たちは一言で「色」と言いますが、「色」は大きく分けると、光源そのものが発する色(光源色)と、光源からの光を受けた物体が示す色(物体色)があります。物体色は更に、その物体表面での反射によって発する色(表面色、または反射物体色)と、半透明物体を透過した光によって生ずる色(透過色、または透過物体色)に分けられます。
光源色は、光源からの光が直接眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
また、物体色は、光源からの光が物体に当って、その物体特有の波長毎の反射(透過)特性の影響を受けた光が眼に入射して視細胞(錐体)を刺激することによって認識される色です。
つまり、私たちが普段見ている「色」の内、「光」と「視覚」の二つの条件だけで成り立つのは光源の色の場合(図【 a 】)です。
光源の種類によって色が異なることはよく経験します。
ロウソクの色はかなり赤っぽい色ですが、公園の夜間照明などによく使われる水銀ランプの色は青白く、またトンネル照明などによく使われるナトリウムランプはオレンジ色をしています。これらの光源は皆、波長毎のエネルギーの強さ(分光分布)が異なりますので、眼の視細胞(錐体)への刺激の仕方が異なるため色が違って見えることになります。
各種「白色光源」の分光分布例・・・・一言で「白色光源」と言ってもかなり色味が異なります。
しかし私たちが実際に見る色の殆どは物体の色です。同じ照明光の下でも物体の種類によって見える色が異なるのは、その物体自体の持つ特性が最終的な「色」を決める大きな要素として機能しているからです。図【 b 】のように、「光」、「視覚」および「物体」の三つの要素が重なる領域で最終的な物体の色が決まる訳ですね。
「光源」・「視覚(眼と脳)」・「物体」を“物体色の三要素”と呼んでいます。
イチゴとレモンの色は何故違う?
物体色の場合、例えば同じ太陽の下で、イチゴとレモンは異なった色に見えます。
光源からの光が物体に当って反射される時、物体の表面で、或る波長の光は反射し、或る波長の光は吸収されます。この特性(分光反射率特性 ≪※1≫ )が物体の種類によって異なりますので同じ照明光の下でもモノによって色が違って見えることになります。
イチゴとレモンの分光反射率特性を比較すると、大雑把に言って、可視域の長波長光(赤く見える光)が多く反射され、短波長光(青く見える光)が殆ど吸収されているのは概ね共通していますが、中波長光(緑に見える光)の特性が大きく異なります。中波長光は、イチゴでは殆ど吸収されるのに対してレモンではかなり反射されてしまいます。この違いが、イチゴ(赤)とレモン(黄)の色の違いとなって認識される訳です。
イチゴの場合は長波長光を多く反射し短波長光や中波長光は殆ど吸収してしまいます。従って、私達の身の周りに有る普通の白色光源(太陽光や蛍光灯など)の下では、眼に入射する光は長波長光の成分が強い光となり、L 錐体が強い刺激を受け、S および M 錐体はあまり刺激を受けません。その結果イチゴの実は「赤い」と認識されます。
それに対してレモンは長波長光だけでなく中波長光もかなり多く反射します。(短波長光はイチゴと同様、殆ど吸収されてしまいます。)従って、レモンの場合は、L 錐体が最も強い刺激を受け、次いで M 錐体もかなりの強い刺激を受けます( S 錐体は殆ど刺激を受けません)。その結果、脳はレモンを赤と緑が加法混色された「黄」と判断することになります。
結局、モノの色というのは、光源の特性(分光分布)と物体の特性(分光反射率または分光透過率)と眼(視細胞)の特性の組合せによって決まるということになります。
モノ自体に「色」がついているのではない
物体色の三要素の内、どれが変化しても物体の「色」は変化することになります。「光源」と「視覚」は「色」が成り立つための必須条件であり、「物体」は「光源」からの色・・・・・といっても、眼に入射する前の段階ではまだ「色」は成立していませんが・・・・・を途中で変化させる、まさに「脚色」する働きをしている、ということができますね。上述のイチゴとレモンの色の違いの説明だけでは、まだモノ自体に色がついている、という先入観念から抜けきれない人もいるかもしれません。
上述の例では照明光源は太陽光のような可視域にエネルギー成分が全体的に分布している「白色光」で照明した場合です。
照明する光が白色光(例えば太陽光)ではなく、例えば「単色光」であった場合はどうでしょうか?
赤色 LED で照明すると・・・
イチゴだけではなくレモンも鮮やかな赤い色に見えます。その理由は、イチゴもレモンも長波長域では反射率が高く、多くの光(長波長光)が反射されて眼に入って来るからです。短波長、中波長域については、照明する赤色 LED 自身にそれらの成分が含まれていません。従って、反射率が高くても低くても反射する光は無いので全く関係ありません。
青色 LED で照明すると・・・
イチゴもレモンもどちらも非常に暗い青(青みがかった黒)に見えます。その理由は、イチゴもレモンも短波長域(青く見える光)の反射率は非常に低いので、殆どが吸収されてしまい、ほんの僅かの光が反射されるだけだからです。青色 LED には短波長域の光しか含まれていませんので、中波長・長波長域の反射率は高くても低くても全く関係ありません。
緑色 LED で照明すると・・・
レモンは明るい緑色に見えますが、イチゴは非常に暗い緑(緑がかった黒)に見えます。レモンの中波長域の反射率はかなり高く、多くの中波長光が反射されて眼に入ってきます。それに対してイチゴは中波長域の光は殆ど吸収されてしまい、ほんの僅か反射されるだけです。(緑色 LED には中波長域の光しか含まれていませんので、短波長・長波長域の反射率は関係ありません。)
つまり、赤色 LED や青色 LED で照明すれば、イチゴとレモンの色の差異は殆ど無くなってしまい、中波長域のみにエネルギーをもつ緑色 LED で照明すると、反射率特性が異なるイチゴとレモンの色は大きく異なってしまいます。
上記の例は、解り易いように照明光源として極端な場合について述べましたが、私達の日常体験では、例えば、デパートで気に入って買って帰った服の色が、自宅で見ると、あるいは日中戸外で見ると、デパートで見たときの色と少し違って見えた、という経験をした人も多いと思います。これは、品物(服)と観察者は同じであるのに対し、照明光源がデパートの売り場と自宅あるいは戸外の光(太陽光)とで異なっていた(光源の分光分布が異なっていた)ために色が違って見えたということです。
これから分かりますように、決してモノ自体に「色」がついている訳ではないことが理解していただけるのではないかと思います。
注釈
≪※1≫ 「反射率」という用語について
「反射率」の厳密な定義は、
“物体に入射した放射束又は光束に対する、反射した放射束又は光束の比”( JIS Z 8113 :1998 )です。つまり、入射光束は反射面によって様々な方向に拡散反射されますが、それら全ての反射光束をひっくるめたものが「反射率」の評価対象になります。
一方、我々が物体を見る場合は、反射面から眼の方向に反射する光束だけを見ていることになります。従って、この場合、厳密には「反射率」という用語を使用するのは不適切で、専門的になりますが、「輝度率」という用語を使用すべきところです。しかし、「輝度率」という用語は一般にはなかなか分かりにくいため、ここでは日常会話的で直感的に分かり易い「反射率」という用語を敢えて使用しました。
なお、「輝度率」の定義は
“同じ光(放射)の照射を受けたとき、自ら発光していない(放射を発していない)面の(放射)輝度と、完全拡散反射体の(放射)輝度との比”( JIS Z 8113 :1998 )です。すなわち、「輝度」という概念が入りますので、観察方向が指定され、その方向に反射する光束だけが評価の対象になる訳です。