光と色の話 第一部
第1回「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~
はじめに
画像処理装置などのマシンビジョンの世界でも「明るい」、「暗い」という表現をよく使います。しかし、人間の感覚(ヒューマンビジョン)とは必ずしも一致しません。これは、「明るさ」を左右する「光」の正体(定義)が両者の間で食い違っていることが原因です。
「人間の眼」による「明るさ」の意味・・・・「ヒューマンビジョン」
私たちは何気なく「明るい」、「暗い」という言葉をよく使います。この「明るい」、「暗い」というのは人間の眼を通して感じる感覚のことでその感覚は「光」によってもたらされていることは誰もが知っています。つまり、人間の眼に入射した「光」が網膜を刺激した結果として、私達は「明るい」、「暗い」という感覚を認識しているのです。従って、「光」という概念も「明暗」という概念も、元々は人間の眼の感覚に直結する概念として理解され、永年使用されてきたものと言えます。
しかし科学技術の発達とともに元々は人間の感覚であった「光」という概念は、今日に至っては人間の感覚とは関係のない範囲まで拡張されました。
それに伴い馴染の深い「光」という言葉も技術的に見ればいくつもの定義が存在することとなっています。
つまり、元々の人間の眼の感覚に基く概念は「可視光」と呼ぶ「光」でした。
それに対して、科学の発達により「可視光」は電磁波≪※1≫の一種であることが分かり、可視光より短波長側、および長波長側にも、人間の眼には見えないけれども「可視光」と物理的性質が変わらない電磁波が存在することが分かってきました。
この段階で、人間の眼という立場から一歩離れて、純粋の物理的エネルギーという立場で電磁波を捉える必要が生じてきました。その結果、可視域の中での最短波長( 360 ~ 400 nm ≪※2≫辺りで紫色に見える)よりも短い波長の電磁波は「紫の外」すなわち「紫外( ultra-violet )」と呼ぶことになりました。また、可視域の中での最長波長( 760 ~ 830 nm 辺りで赤色に見える)よりも長い波長の電磁波は「赤の外」すなわち「赤外( infra-red )」と呼ぶことになりました。
そして紫外、可視、赤外の電磁波をまとめて、拡張された概念の「光」と呼ぶことになった訳です。
このような経緯から「光」には、人間の眼で評価した狭い意味の「光」と、人間の眼を離れて純粋物理的エネルギーで評価した広い意味での「光」という 2 つの定義が存在しています。
また、人間の眼は「可視域」の中のどの波長に対しても一様な感度をもっている訳ではなく、可視域のほぼ中央部が最も感度が高く(明るく感じる)、長波長側、短波長側になるにつれて感度が低く(暗く感じる)なっています。≪※3≫
「器械の眼」による「明るさ」・・・・・「マシンビジョン」
「光」を感じるのは人間の眼だけではなく、写真のフイルムや撮像素子、各種光センサーなども「光を感じる機能」を持っています。これらの感光機能(器械の眼)の「光」の波長に対する感度は人間の眼の波長感度特性とは一般には異なっています≪※4≫。
また、人間以外の動物の眼の特性も人間の眼とは異なっていることが知られています。
従って、同じ「光」に対しても、どのような「眼」・・・人間の眼なのか、器械の眼なのか・・・で見るのかによって、その「眼」が感じる「明るさ」の度合いが異なってくることになります。
また、「器械の眼」といっても、カメラの種類などによってその特性は様々です。
一方、「光」自体にも様々な状態があり、紫外域から赤外域に至るまで、波長毎にどれだけのエネルギーが含まれているか(「分光分布特性」)によって、「眼」の受ける刺激の強さは異なります。≪※5≫「眼」の感度の高い波長域に「光」のエネルギーが沢山あれば「明るく」感じますが、「眼」の感度が低い波長域に「光」のエネルギーが沢山あっても、明るくは感じません。人間の眼では真っ暗であっても赤外カメラ(赤外域にのみ感度がある)では画像が鮮明に撮影できることでお分かりいただけると思います。
結論として、「明るさ」の正体は、「光」の「分光分布」と検出器(「人間の眼」や「器械の眼」)の波長感度特性(「分光応答度」)の掛け算で表すことができる訳です。≪※6≫
「光」という用語には複数の定義がある
ヒューマンビジョン主体の領域では「光」とは狭義の定義、すなわち人間の眼の感度で「明るさ」を評価し、マシンビジョン主体の領域では、議論の対象とする器械の眼の感度で「明るさ」を評価するのが基本となります。一般に器械の眼の感度は、対象の器械ごとに異なりますので、器械ごとに「光」の定義が異なると考えるべきでしょう。
物理学やマシンビジョンの領域では「紫外光」、「赤外光」といった表現が使われることがありますが、ヒューマンビジョンの領域では「光」の定義は狭義であり、「紫外」、「赤外」は「光」とは言いません。
以上のように、技術的にどの定義に基いた「光」なのかを明確にしなければ、話が噛み合わないこともありますので、「光」の定義についての充分な配慮・認識が必要だと思います。
注釈
≪※1≫ 電磁波
「電磁波」については、次回以降に解説していきますので、ここでは「光」は「電磁波」の一種である、ということをご理解いただければと思います。
≪※2≫ nm (ナノメートル)
電磁波は、「波」という文字が使われるように、海岸に打ち寄せる波や電波や音波などと同じように、エネルギーが繰り返し振動しながら進行していく性質を持っています。「光」も「電磁波」の一種ですから、このような「波動性」を持っています。波長を表すのには通常、ギリシャ文字の 「 λ 」( “ ラムダ ” と読みます)を使い、「光」の波長を表す単位としては、
nm (ナノメートル)がよく使われます。
1 nm = 10-9 m = 10 億分の 1 m
例えば波長 500 ナノメートルの場合は 200 万分の 1 メートルということになります。
≪※3≫ 人間の眼の「光」に対する波長感度特性
「光」に対する人間の眼の波長感度特性は、個人個人によって微妙にバラツキがあり、また、同一人物でもその時々の体調や精神状態によっても生理的に微妙に変動しますが、「光」を客観的・定量的に論じるために、人類を代表する特性として「標準分光視感効率」というものが世界共通の規格として数値で規定されています。「標準分光視感効率」は波長の関数として
V ( λ ) という記号で表します。
≪※4≫ 「器械の眼」の波長感度特性
「光」を感じる機能(眼やフィルムなど)の光の波長 λ に対する感度特性を一般に「分光応答度特性」と言い、例えば
S ( λ ) で表記します。 V ( λ ) は S ( λ ) の特殊な場合と位置付けられます。
≪※5≫ 光の分光分布
光の波長毎 ( 1 nm 毎 ) のエネルギー分布状態を示す特性を「分光分布」と言い、例えば P ( λ ) で表します。私たちの身近な光の幾つかについて、分光分布の例を示します。
≪※6≫ 「明るさ」は、「光」の特性と検出器の特性の組合せで決まる。
また、人間の眼の波長感度特性(標準分光視感効率)を V ( λ ) 、カメラなどの器械の眼の波長感度特性を「分光応答度」と言い、例えば S ( λ ) で表します。
これらの特性を、例えば 20 nm 毎に区切ってグラフ表示した例です。
或る波長区間 ( n ) に着目しますと、この波長幅 ( 20 nm ) 区間の「光」のエネルギー P ( n ) × 20 を、検出器はこの区間の感度 V ( n ) または S ( n ) で受けることになります。つまり、この区間において検出器が受ける刺激の量( 応答量 )は
P ( n ) × V ( n ) × 20 あるいは P ( n ) × S ( n ) × 20 ということになります。検出器として受ける全刺激量は、各波長区間の刺激量を全部合算したものになりますから、棒グラフの全面積がその検出器が感じる「明るさ」ということになります。
簡単にするために、「光」の分光分布は共通とし、検出器の分光応答度特性を「人間の眼」と「器械の眼」の比較例で示しました。しかし一般には「光」の種類によって分光分布は様々ですので、「明るさ」は、「光」の分光分布 P ( λ ) と検出器の分光応答度 S ( λ ) の掛け算で決まることになります。
「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~
光と色の話 第一部
第1回「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~
はじめに
画像処理装置などのマシンビジョンの世界でも「明るい」、「暗い」という表現をよく使います。しかし、人間の感覚(ヒューマンビジョン)とは必ずしも一致しません。これは、「明るさ」を左右する「光」の正体(定義)が両者の間で食い違っていることが原因です。
「人間の眼」による「明るさ」の意味・・・・「ヒューマンビジョン」
私たちは何気なく「明るい」、「暗い」という言葉をよく使います。この「明るい」、「暗い」というのは人間の眼を通して感じる感覚のことでその感覚は「光」によってもたらされていることは誰もが知っています。つまり、人間の眼に入射した「光」が網膜を刺激した結果として、私達は「明るい」、「暗い」という感覚を認識しているのです。従って、「光」という概念も「明暗」という概念も、元々は人間の眼の感覚に直結する概念として理解され、永年使用されてきたものと言えます。
しかし科学技術の発達とともに元々は人間の感覚であった「光」という概念は、今日に至っては人間の感覚とは関係のない範囲まで拡張されました。
それに伴い馴染の深い「光」という言葉も技術的に見ればいくつもの定義が存在することとなっています。
つまり、元々の人間の眼の感覚に基く概念は「可視光」と呼ぶ「光」でした。
それに対して、科学の発達により「可視光」は電磁波≪※1≫の一種であることが分かり、可視光より短波長側、および長波長側にも、人間の眼には見えないけれども「可視光」と物理的性質が変わらない電磁波が存在することが分かってきました。
この段階で、人間の眼という立場から一歩離れて、純粋の物理的エネルギーという立場で電磁波を捉える必要が生じてきました。その結果、可視域の中での最短波長( 360 ~ 400 nm ≪※2≫辺りで紫色に見える)よりも短い波長の電磁波は「紫の外」すなわち「紫外( ultra-violet )」と呼ぶことになりました。また、可視域の中での最長波長( 760 ~ 830 nm 辺りで赤色に見える)よりも長い波長の電磁波は「赤の外」すなわち「赤外( infra-red )」と呼ぶことになりました。
そして紫外、可視、赤外の電磁波をまとめて、拡張された概念の「光」と呼ぶことになった訳です。
このような経緯から「光」には、人間の眼で評価した狭い意味の「光」と、人間の眼を離れて純粋物理的エネルギーで評価した広い意味での「光」という 2 つの定義が存在しています。
また、人間の眼は「可視域」の中のどの波長に対しても一様な感度をもっている訳ではなく、可視域のほぼ中央部が最も感度が高く(明るく感じる)、長波長側、短波長側になるにつれて感度が低く(暗く感じる)なっています。≪※3≫
「器械の眼」による「明るさ」・・・・・「マシンビジョン」
「光」を感じるのは人間の眼だけではなく、写真のフイルムや撮像素子、各種光センサーなども「光を感じる機能」を持っています。これらの感光機能(器械の眼)の「光」の波長に対する感度は人間の眼の波長感度特性とは一般には異なっています≪※4≫。
また、人間以外の動物の眼の特性も人間の眼とは異なっていることが知られています。
従って、同じ「光」に対しても、どのような「眼」・・・人間の眼なのか、器械の眼なのか・・・で見るのかによって、その「眼」が感じる「明るさ」の度合いが異なってくることになります。
また、「器械の眼」といっても、カメラの種類などによってその特性は様々です。
一方、「光」自体にも様々な状態があり、紫外域から赤外域に至るまで、波長毎にどれだけのエネルギーが含まれているか(「分光分布特性」)によって、「眼」の受ける刺激の強さは異なります。≪※5≫「眼」の感度の高い波長域に「光」のエネルギーが沢山あれば「明るく」感じますが、「眼」の感度が低い波長域に「光」のエネルギーが沢山あっても、明るくは感じません。人間の眼では真っ暗であっても赤外カメラ(赤外域にのみ感度がある)では画像が鮮明に撮影できることでお分かりいただけると思います。
結論として、「明るさ」の正体は、「光」の「分光分布」と検出器(「人間の眼」や「器械の眼」)の波長感度特性(「分光応答度」)の掛け算で表すことができる訳です。≪※6≫
「光」という用語には複数の定義がある
ヒューマンビジョン主体の領域では「光」とは狭義の定義、すなわち人間の眼の感度で「明るさ」を評価し、マシンビジョン主体の領域では、議論の対象とする器械の眼の感度で「明るさ」を評価するのが基本となります。一般に器械の眼の感度は、対象の器械ごとに異なりますので、器械ごとに「光」の定義が異なると考えるべきでしょう。
物理学やマシンビジョンの領域では「紫外光」、「赤外光」といった表現が使われることがありますが、ヒューマンビジョンの領域では「光」の定義は狭義であり、「紫外」、「赤外」は「光」とは言いません。
以上のように、技術的にどの定義に基いた「光」なのかを明確にしなければ、話が噛み合わないこともありますので、「光」の定義についての充分な配慮・認識が必要だと思います。
注釈
≪※1≫ 電磁波
「電磁波」については、次回以降に解説していきますので、ここでは「光」は「電磁波」の一種である、ということをご理解いただければと思います。
≪※2≫ nm (ナノメートル)
電磁波は、「波」という文字が使われるように、海岸に打ち寄せる波や電波や音波などと同じように、エネルギーが繰り返し振動しながら進行していく性質を持っています。「光」も「電磁波」の一種ですから、このような「波動性」を持っています。波長を表すのには通常、ギリシャ文字の 「 λ 」( “ ラムダ ” と読みます)を使い、「光」の波長を表す単位としては、
nm (ナノメートル)がよく使われます。
1 nm = 10-9 m = 10 億分の 1 m
例えば波長 500 ナノメートルの場合は 200 万分の 1 メートルということになります。
≪※3≫ 人間の眼の「光」に対する波長感度特性
「光」に対する人間の眼の波長感度特性は、個人個人によって微妙にバラツキがあり、また、同一人物でもその時々の体調や精神状態によっても生理的に微妙に変動しますが、「光」を客観的・定量的に論じるために、人類を代表する特性として「標準分光視感効率」というものが世界共通の規格として数値で規定されています。「標準分光視感効率」は波長の関数として
V ( λ ) という記号で表します。
≪※4≫ 「器械の眼」の波長感度特性
「光」を感じる機能(眼やフィルムなど)の光の波長 λ に対する感度特性を一般に「分光応答度特性」と言い、例えば
S ( λ ) で表記します。 V ( λ ) は S ( λ ) の特殊な場合と位置付けられます。
≪※5≫ 光の分光分布
光の波長毎 ( 1 nm 毎 ) のエネルギー分布状態を示す特性を「分光分布」と言い、例えば P ( λ ) で表します。私たちの身近な光の幾つかについて、分光分布の例を示します。
≪※6≫ 「明るさ」は、「光」の特性と検出器の特性の組合せで決まる。
また、人間の眼の波長感度特性(標準分光視感効率)を V ( λ ) 、カメラなどの器械の眼の波長感度特性を「分光応答度」と言い、例えば S ( λ ) で表します。
これらの特性を、例えば 20 nm 毎に区切ってグラフ表示した例です。
或る波長区間 ( n ) に着目しますと、この波長幅 ( 20 nm ) 区間の「光」のエネルギー P ( n ) × 20 を、検出器はこの区間の感度 V ( n ) または S ( n ) で受けることになります。つまり、この区間において検出器が受ける刺激の量( 応答量 )は
P ( n ) × V ( n ) × 20 あるいは P ( n ) × S ( n ) × 20 ということになります。検出器として受ける全刺激量は、各波長区間の刺激量を全部合算したものになりますから、棒グラフの全面積がその検出器が感じる「明るさ」ということになります。
簡単にするために、「光」の分光分布は共通とし、検出器の分光応答度特性を「人間の眼」と「器械の眼」の比較例で示しました。しかし一般には「光」の種類によって分光分布は様々ですので、「明るさ」は、「光」の分光分布 P ( λ ) と検出器の分光応答度 S ( λ ) の掛け算で決まることになります。
「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~
光と色の話 第一部
第1回「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~
はじめに
画像処理装置などのマシンビジョンの世界でも「明るい」、「暗い」という表現をよく使います。しかし、人間の感覚(ヒューマンビジョン)とは必ずしも一致しません。これは、「明るさ」を左右する「光」の正体(定義)が両者の間で食い違っていることが原因です。
「人間の眼」による「明るさ」の意味・・・・「ヒューマンビジョン」
私たちは何気なく「明るい」、「暗い」という言葉をよく使います。この「明るい」、「暗い」というのは人間の眼を通して感じる感覚のことでその感覚は「光」によってもたらされていることは誰もが知っています。つまり、人間の眼に入射した「光」が網膜を刺激した結果として、私達は「明るい」、「暗い」という感覚を認識しているのです。従って、「光」という概念も「明暗」という概念も、元々は人間の眼の感覚に直結する概念として理解され、永年使用されてきたものと言えます。
しかし科学技術の発達とともに元々は人間の感覚であった「光」という概念は、今日に至っては人間の感覚とは関係のない範囲まで拡張されました。
それに伴い馴染の深い「光」という言葉も技術的に見ればいくつもの定義が存在することとなっています。
つまり、元々の人間の眼の感覚に基く概念は「可視光」と呼ぶ「光」でした。
それに対して、科学の発達により「可視光」は電磁波≪※1≫の一種であることが分かり、可視光より短波長側、および長波長側にも、人間の眼には見えないけれども「可視光」と物理的性質が変わらない電磁波が存在することが分かってきました。
この段階で、人間の眼という立場から一歩離れて、純粋の物理的エネルギーという立場で電磁波を捉える必要が生じてきました。その結果、可視域の中での最短波長( 360 ~ 400 nm ≪※2≫辺りで紫色に見える)よりも短い波長の電磁波は「紫の外」すなわち「紫外( ultra-violet )」と呼ぶことになりました。また、可視域の中での最長波長( 760 ~ 830 nm 辺りで赤色に見える)よりも長い波長の電磁波は「赤の外」すなわち「赤外( infra-red )」と呼ぶことになりました。
そして紫外、可視、赤外の電磁波をまとめて、拡張された概念の「光」と呼ぶことになった訳です。
このような経緯から「光」には、人間の眼で評価した狭い意味の「光」と、人間の眼を離れて純粋物理的エネルギーで評価した広い意味での「光」という 2 つの定義が存在しています。
また、人間の眼は「可視域」の中のどの波長に対しても一様な感度をもっている訳ではなく、可視域のほぼ中央部が最も感度が高く(明るく感じる)、長波長側、短波長側になるにつれて感度が低く(暗く感じる)なっています。≪※3≫
「器械の眼」による「明るさ」・・・・・「マシンビジョン」
「光」を感じるのは人間の眼だけではなく、写真のフイルムや撮像素子、各種光センサーなども「光を感じる機能」を持っています。これらの感光機能(器械の眼)の「光」の波長に対する感度は人間の眼の波長感度特性とは一般には異なっています≪※4≫。
また、人間以外の動物の眼の特性も人間の眼とは異なっていることが知られています。
従って、同じ「光」に対しても、どのような「眼」・・・人間の眼なのか、器械の眼なのか・・・で見るのかによって、その「眼」が感じる「明るさ」の度合いが異なってくることになります。
また、「器械の眼」といっても、カメラの種類などによってその特性は様々です。
一方、「光」自体にも様々な状態があり、紫外域から赤外域に至るまで、波長毎にどれだけのエネルギーが含まれているか(「分光分布特性」)によって、「眼」の受ける刺激の強さは異なります。≪※5≫「眼」の感度の高い波長域に「光」のエネルギーが沢山あれば「明るく」感じますが、「眼」の感度が低い波長域に「光」のエネルギーが沢山あっても、明るくは感じません。人間の眼では真っ暗であっても赤外カメラ(赤外域にのみ感度がある)では画像が鮮明に撮影できることでお分かりいただけると思います。
結論として、「明るさ」の正体は、「光」の「分光分布」と検出器(「人間の眼」や「器械の眼」)の波長感度特性(「分光応答度」)の掛け算で表すことができる訳です。≪※6≫
「光」という用語には複数の定義がある
ヒューマンビジョン主体の領域では「光」とは狭義の定義、すなわち人間の眼の感度で「明るさ」を評価し、マシンビジョン主体の領域では、議論の対象とする器械の眼の感度で「明るさ」を評価するのが基本となります。一般に器械の眼の感度は、対象の器械ごとに異なりますので、器械ごとに「光」の定義が異なると考えるべきでしょう。
物理学やマシンビジョンの領域では「紫外光」、「赤外光」といった表現が使われることがありますが、ヒューマンビジョンの領域では「光」の定義は狭義であり、「紫外」、「赤外」は「光」とは言いません。
以上のように、技術的にどの定義に基いた「光」なのかを明確にしなければ、話が噛み合わないこともありますので、「光」の定義についての充分な配慮・認識が必要だと思います。
注釈
≪※1≫ 電磁波
「電磁波」については、次回以降に解説していきますので、ここでは「光」は「電磁波」の一種である、ということをご理解いただければと思います。
≪※2≫ nm (ナノメートル)
電磁波は、「波」という文字が使われるように、海岸に打ち寄せる波や電波や音波などと同じように、エネルギーが繰り返し振動しながら進行していく性質を持っています。「光」も「電磁波」の一種ですから、このような「波動性」を持っています。波長を表すのには通常、ギリシャ文字の 「 λ 」( “ ラムダ ” と読みます)を使い、「光」の波長を表す単位としては、
nm (ナノメートル)がよく使われます。
1 nm = 10-9 m = 10 億分の 1 m
例えば波長 500 ナノメートルの場合は 200 万分の 1 メートルということになります。
≪※3≫ 人間の眼の「光」に対する波長感度特性
「光」に対する人間の眼の波長感度特性は、個人個人によって微妙にバラツキがあり、また、同一人物でもその時々の体調や精神状態によっても生理的に微妙に変動しますが、「光」を客観的・定量的に論じるために、人類を代表する特性として「標準分光視感効率」というものが世界共通の規格として数値で規定されています。「標準分光視感効率」は波長の関数として
V ( λ ) という記号で表します。
≪※4≫ 「器械の眼」の波長感度特性
「光」を感じる機能(眼やフィルムなど)の光の波長 λ に対する感度特性を一般に「分光応答度特性」と言い、例えば
S ( λ ) で表記します。 V ( λ ) は S ( λ ) の特殊な場合と位置付けられます。
≪※5≫ 光の分光分布
光の波長毎 ( 1 nm 毎 ) のエネルギー分布状態を示す特性を「分光分布」と言い、例えば P ( λ ) で表します。私たちの身近な光の幾つかについて、分光分布の例を示します。
≪※6≫ 「明るさ」は、「光」の特性と検出器の特性の組合せで決まる。
また、人間の眼の波長感度特性(標準分光視感効率)を V ( λ ) 、カメラなどの器械の眼の波長感度特性を「分光応答度」と言い、例えば S ( λ ) で表します。
これらの特性を、例えば 20 nm 毎に区切ってグラフ表示した例です。
或る波長区間 ( n ) に着目しますと、この波長幅 ( 20 nm ) 区間の「光」のエネルギー P ( n ) × 20 を、検出器はこの区間の感度 V ( n ) または S ( n ) で受けることになります。つまり、この区間において検出器が受ける刺激の量( 応答量 )は
P ( n ) × V ( n ) × 20 あるいは P ( n ) × S ( n ) × 20 ということになります。検出器として受ける全刺激量は、各波長区間の刺激量を全部合算したものになりますから、棒グラフの全面積がその検出器が感じる「明るさ」ということになります。
簡単にするために、「光」の分光分布は共通とし、検出器の分光応答度特性を「人間の眼」と「器械の眼」の比較例で示しました。しかし一般には「光」の種類によって分光分布は様々ですので、「明るさ」は、「光」の分光分布 P ( λ ) と検出器の分光応答度 S ( λ ) の掛け算で決まることになります。
「明るさ」とは何か?
~「ヒューマンビジョン」「マシンビジョン」~